平安幻想異聞録-異聞- 207 - 212
(207)
鬼はカエルのように大きな口をして、土気色の肌をしていた。
唇の端から黄色い牙が覗いていた。
鬼に手を押さえつけられながら、それを振りほどこうとするヒカルを、
のしかかる魔性の男が、うっすらと流麗な笑を浮かべて眺めていた。
まるで、この暴れる獲物をどう料理しようか楽しんでいるようだった
ヒカルは今の今まで自分がこ魔物に心を奪われていたことに気付き、
あらためて悪寒に身を震わせた。
さっきも、昨日の女もそうだった。この魔物は人の体だけでなく、心も操るのだ。
そうやって、ヒカル自身が知らぬうちにヒカルを自分の腕の中に招き入れ、
精気を貪りつくすのだ。
男がついに獲物の料理の仕方を決めたらしい。
あざやかに笑って強くヒカルを抱きしめた。
胸の中に直接手を入れられるような奇妙な感覚、ヒカルはうろたえて、
抗うように男の体を肩で押しのけようとしたが、すでにその時、
人の心をもあやつる魔物は、ひとつの心象をヒカルの頭の中に送り
込んでいた。
(――佐為!)
突然、佐為に抱きしめられているような錯覚が起こった。そんなはずないと、
こんな所に居るわけがないと分かっているのに、その腕の温もりは確かに
佐為のもの。浅く菊の香の混じった薄い汗の匂いは確かに佐為のものとしか
思えないほどに生々しい。
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頭の隅の何処かが、これは魔物の手だと警告するのに、
自分を抱きしめるのが佐為なのだと思った途端、体の温度が上がった。
肌に噛みつかれるような乱暴な愛撫にも体が悦んでざわめいた。
抵抗しようとしていた体から力が抜けた。
佐為の唇が頬から首、鎖骨、胸やヘソの上を、赤い印を残すように
吸い立てながら移動していく感覚を、貪欲に受け止める。
唇が、ヒカルの下腹部にたどりつき、屹立しはじめた陰茎を舌で愛撫し
はじめた。やがて美しい人の口が、自分の幼い男根を含み、しっぽりと
飲み込み、舌でしごきたてる感覚に、ヒカルはあっという間に蕩かされて
果てた。
佐為が、片足に手を添えて、さらに足を開くように即す。
ヒカルは、自らその片足を、佐為の肩の上に持ち上げて乗せた。
佐為に求められれば、ヒカルは何でもしてやりたくなってしまう。
甘やかしてやりたくなってしまうのだ。
優しくて、誰より傷付きやすい佐為。
どんな恥ずかしい格好も、どんなにあられもない嬌声をあげることも平気だと
思えてしまう。
――佐為、おまえにオレの心も体も全部やるよ。
――だから、おまえずっとオレの側にいろよ。
再び、その幼い男根への舌戯がはじまった。
腕を押さえつけられ、鬼に上体の自由を奪われたまま、
反り返ったヒカルの喉が倒錯的にヒクヒクと震えた。
蕩けるような声が、灯明のひとつも灯されていない暗い部屋に響いた。
「…そこはっ…ヤ…」
陰茎を愛撫していた佐為の唇が、小振りな陰嚢に降り、さらに秘口の
入り口に触れたのだ。
だが、ヒカルは羞恥に頬を染めながら、足を閉じようとはしなかった。
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佐為はさんざんにそこの襞を舌で舐め、指でいじってくつろげて受け入れる
用意を整えさせると、和らいだ門扉に固いものを押し当てた。
そして、それが中に押し込まれる感触に、ヒカルは怖気がして目が覚めた。
――これは、佐為じゃない。
それどころか、人のものでもない。
今、ヒカルの中に入って来ようとしているこれは、形状こそ佐為に似せて
いるものの、ぬるくてねっとりとしていて、よそよそしくて、うどん粉を
その形に固めたものを中に押し込まれたような感触しかない。
「……くっ…!」
幻惑されていた感覚が戻ってくるとすぐに、自分を貫く男が佐為ではなく、
あの淫の魔性の者なのだということが理解できた。
咄嗟に、自分の腕を戒める鬼の手に逆らい、反抗を試みたが、床に
縫い付らけれた上体はビクともせず、下肢は今しも、人でないものに
犯されようとしていた。
慌てて足を閉じようとしたが、男の姿をした魔物は肩に上がったヒカルの足を
強い力で抱えてそれを阻止する。
男の指がふくらはぎに食い込んでいた。
そのまま魔物の陰物がヒカルの中に飲み込まれる。
ヒカルが小さく呻いた。
一度開かれてしまった心と体は、それに逆らえなかった。
佐為の形状に形を似せた魔物のそれが、中の壁を確かめて叩く感触に、
体が先を求めて小さく震えた
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涙が出てきた。快楽のためでもなければ、恐怖の為でもない。
悔しさのための涙だった。悔しくて悔しくてしょうがない。そんな風に、
自分の心の中に侵入して佐為のことまで穢されるのはたまらなかった。
佐為のはこんなのじゃない。ヒカルの内壁にピタリと吸い付くように
丁度いい大きさや形は似ていたが、本当の佐為のそれは、熱くて、
ヒカルの中にいるときは普段のかの人の穏やかさからは想像も出来ないほど
猛く脈打って、ヒカルの体も、そして心も一杯にしてしまうのだ。
魔物がヒカルの思考を現実に引き戻すように体をゆする。無慈悲に
律動を始める。
同時に、手で肌をまさぐりつつ、そのヘソの中まで舌を差し込んで
舐めて愛撫する。
彼はもはや、佐為の幻影を見せてヒカルの心に隙を作ろうなどという
周りくどいことはしなくなった。体さえ飛び越して、頭の一番奥の部分に、
直接快楽を流し込んできた。
「あぁぁ、あぁぁっ、あぁぁっ」
魔物に中と外からを責められて、ヒカルが大きな声を上げて身悶える。
その上、魔物はもっとよい声を聞かせろと、その痴態を楽しませろとでも
言うように、ヒカルが達しそうになると、その中の責め手をゆるめて
しまうのだ。そして、しばらくすると再び激しくヒカルのいい場所をこすり、
腰ごと揺すりたてる。
「やだ、…っ、お願い、イカせて、イカせて………っっ、あぁっ」
残酷なまでに上手い手管だった。
人であったら、絶えきれず既にヒカルの中に2度3度と放って
終わってしまっているところであったが、淫の妖しゆえに、
そちらの楽しみ方、人の身の神経の扱いもこの魔物は極めているのか、
ヒカルは快楽の岸辺でいいように玩ばれる。
「あぁぁっ、あぁっ…はぁん……ぁ……ぁああっ、ぁああっ」
憑かれたように途切れなく喘ぎ、啜り泣きつづける
閉じることの出来ないヒカルの口に、人の腕ほどもある太い何かが
押し込まれた。
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「ふぐっっ…うんっ、ん、んぐっ……っ!」
薄く目を開けて見れば、それはさっきまでヒカルの上半身を押しひさいでいた
鬼の陰物だった。鬼がいつのまにか自分の役割を放棄し、裸の下腹部に
張りだした大きなそれをヒカルの口に押し込んだのだ。
鬼が乱暴に抜き差しし始めた。快楽のために思考が朦朧としているヒカルは
それを吐き出すことが出来ず、上の穴と下の穴を同時に責められることに
なってしまった。
ヒカルは、人間の体がおよそ耐えうる快楽の限界の淵にいた。
えんえんと続く悦楽の責め苦には終わりがないように思われた。
土気色の鬼が意地になったように、自らの下肢を捏ね回し、ヒカルの口で
自分の陰物を激しくしごく。
「…んっ、ふぐっん…んんっ…んっ…」
上からも下からも同時に嬲られて、ヒカルが苦しげに眉をよせて涙をこぼす。
「んっ、んっ…、うんんっ…んっっ」
何の予兆もなく鬼の陰物がはじけた。生臭い液体が、ヒカルの口いっぱいに
広がった。
陰物が征服された唇からズルリと引き抜かれる。ヒカルが口に受け止めきれ
なかった白い陰液が、たらたらと口の端からこぼれた。
鬼は終わったが、ヒカルの中に居座る淫の性の男はまだ終わっていない。
「はっ、あぁっん…はっっ……ああっ、はああっ」
鬼の陰液を唇からこぼれさせたまま、ヒカルは大きく喘ぎ、背筋を反らす。
魔性の男は手の中の獲物にとどめを刺そうというのか、奔馬のいきおいに
抽挿を早めた。
痩せて肉の薄くなった尻の肉の外からもその様子がわかるほどに。
腹の深部で魔物のそれが、大きく膨れ上がった。
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それに中をめいっぱい押し広げられたヒカルの、叫ぶようなよがり声が
夜の空気を打った。
そのまま、五回六回と抜き差しされ、内壁を圧され、強く何度もこすられる快感に、
ヒカルは体を痙攣させながら、なまめかしい淫声に喉を震わせた。
…果てる瞬間、ヒカルは闇に向かって手を伸ばしてた。
無意識の中で、ひとつの言葉が、ヒカルの口から漏れていた。
それは、この座間邸に来る事を一人で決めたあの日に、これだけは絶対に
言わないと自分に禁じていた言葉だった。
「……佐為、助けて……」
そしてその日、ついに佐為とアキラは、あの凄惨な陵辱の舞台へとたどり着いた。
そこで二人を出迎えたのは一本の太刀だった。
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