ピングー 21
(21)
近頃じゃ女子高生だってそんな幻想は信じてないのに、こんなんじゃ、すぐに悪い大人に
騙されて(いや、昨今じゃ大人とも限らないのだが)泣きを見ることになるぞ――と、
緒方は、自分自身の事ははるか100メートル程上の棚上に放り上げて考えた。
「違った?」
「……違わん」
「良かった」
「……………」
緒方はだまって、今時のヒカル程の年の子供貞操観念というのはどうなっているのかと
思いを馳せていた。
(しかも、異性相手ではないのだが。それとも、若者達の間では、すでに同性間での
行為はそんなにも普通になってしまっているのか――)
「先生が、好きなら、いいよ」
緒方は進藤ヒカルを見た。進藤ヒカルは上目遣いにこちらを見ていた。
「俺も……痛かったけど、ちょっとだけ、気持ちよかったし……たまになら……」
緒方は無表情をたもちつつ、心のなかで突っ込んだ。
(今時の10代は理解できん。それともこいつが特別なのか)
「でも、たまにだからね!」
ヒカルが強く言った。
念を押すヒカルの言葉を、緒方は天上を眺めながら聞きながす。
色らしい色はスクランブルエッグの黄色しかない空間で、ひとり密やかに煩悶する緒方精二を
よそに、進藤ヒカルは手元のパンの最後の一切れを口に押し込むと、明るく宣言した。
「せんせ! パンもう一枚ちょうだい!」
どこかで鳩が呑気に鳴いている。
さっぱりと開かれた白い厚手のカーテンの向こうから、かなり高くなってしまった朝日が
差し込んで、テーブルの上に、食器やらカップやらの影を映し出していた。
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