裏階段 三谷編 21
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彼の中に入ったまま彼の肩の下に腕を入れて彼を抱き締めた。
まだ機嫌を損ねた様子で横を向いていた彼の顎を手で捕らえて優しく口付ける。
種火を落とさぬ様彼の奥の特別な箇所を甘く刺激し続ける。
若い性は限界に来ていた。水を抱えた風船のようにほんの僅かな衝撃で弾ける寸前だった。
彼の唇は呼吸を求めて逃げ、それを追って塞ぐ。それをくり返しようやく彼はこちらの
要求に応じて口の中を解放する。彼の吐息も舌も未だ甘い。
取り引きのようにこちらの舌の動きに合わせて彼の方からも舌を絡めてくる。
幼く桜色に上気した頬と反抗的な光は鳴りを潜めた潤んだ瞳で再度こちらに哀願してくる。
一瞬迷い、こちらの都合は置いておいて彼を一度楽にしてやる事にした。
唇を塞いだままこちらが激しく動き出すと幾らも経たない内に彼の内部が熱くうねり、
痙攣しだした。譲歩した代わりに彼の声を封じた。
「先生」と呼ぶと、その人は少し戸惑うような笑顔を見せた。縁側が柔らかく日差しに輝く
六畳間の一室を自分にとって初めての門下生となる少年に与えた。「古くて申し訳ないが」と断り
自分が愛用していた机と椅子をそこに運んだ。
当時から「先生」の自宅には多くの棋士仲間が集い交流していた。そこに集う人々も皆明朗で闊達で
優しかった。自分がその中に居る事が許されていることが不思議だった。
朝目を覚ませば陰うつなあの自分を縛り付けた床の間の柱があるシミだらけの畳の和室のままであり
全て伯父に抱かれる途中で気を失った自分が見ていた夢なのではないかと思った。
碁を打つ度にオレの中で死んでいない伯父が蘇る。そして碁の他に伯父が厄介なものを
オレの体に遺していったせいだった。
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