失着点・龍界編 21
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ゆっくりとヒカルから顔を離すと緒方は優しくヒカルの頬を撫でた。
夕暮れの淡い赤い光が足早に不穏な闇を連れて来ようとしている。
「オレなりに調べてみる。君は早く体調を戻して復帰する事だけ考えろ。
何も心配するな。二度とその場所には近付くな。」
そう言って緒方は行こうとした。ヒカルはあの事で改めて念を押す為に
緒方を呼び止めた。
「緒方さん、携帯が…」
「携帯?」
「オレの携帯、あいつらに取られちゃって…もしかしたら塔矢の連絡先とか
知られたかもしれない」
母親には「落とした」と言って手続きは頼んでおいた。中の情報は
そんなに入ってはいないとはいえ、知られて悪用される恐れはあった。
少なくとも自分が囲碁界関係の人間である事は分かったはずだ。
たとえ三谷が彼等に何も言わなかったとしても。
「わかった。それとなくアキラ君に注意をしておくよ。」
緒方はもう一度ヒカルに最初に三谷が男達と出て来たビルの場所を
確認して立ち去った。
緒方にはそう言ってもらえたものの、ヒカルはまだ何か良くない事が起きる
ような不安な気持ちの中に取り残された。
「…三谷」
男達の間で悲鳴をあげていた三谷が、痛々しかった。なのに何も出来なかった
自分が、情けなくて腹立だしかった。
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