失着点・展界編 21
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「子供がこの時間にこんなところをうろうろするのは感心しないな。
お友達と夜遊びか。」
ヒカルは俯き加減に小さく左右を見回す。…間違いなく自分に話し掛けられて
いるようだ。助けが欲しいあまりに幻聴が、という訳ではなさそうだった。
恐る恐る目線を上げる。
薄い色のスーツに身を包んだ長身の男、緒方がヒカルを見下ろしていた。
「…まあいい。見かけたのがオレで良かったな。棋院のおじさん連中には
黙っておいてやる。補導員とかに捕まる前に早くお家に帰るんだな。」
緒方はタバコをくわえると周囲を見廻す。今すぐにも立ち去りそうである。
ある意味、ヒカルにとっては残酷な選択となった。
助けを求めれば事情を話すはめになりかねない。見知らぬ通りがかりの輩に
声を掛けてもらえた方がよほど気が楽だったかもしれないのだ。
そうして迷っている間も激痛はヒカルの下腹部を襲い、血の気を失った頬を
汗が滴り落ちた。だがネオンの明かりの下では顔色までは伝わらない。
どうしよう、どうしよう…と、決意が出来ず声を出せないままでいた。
緒方は歩き出した。数歩歩いて、最後にもう一度ちらりとヒカルを見た。
「…進藤?」
汗と共に、半ば放心状態の表情のヒカルの目から涙が伝い落ちていた。
ようやくヒカルの様子がおかしいことに気が付いた緒方が近付いて来る。
自分の唇がどう動いて、その時緒方にどう話したのかヒカルは覚えていない。
…次に意識が戻った場所は、見知らぬ部屋の長椅子の上だった。
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