白と黒の宴4 21 - 22


(21)
「カメラなんかに驚いているのか?昨日のレセプションでは平気だっただろ。」
アキラに声をかけられて社はますます頭に血が登った。
「だ、誰が驚いとるって!?ああっ?」
本音のところでは、昨日だって無遠慮に写真に撮られるのはあまり良い気がしなかったのだ。
(どうせお前と違ってオレは撮られ慣れてへんのやっっ)
内心でアキラにブツクサ悪態をつく。
ヒカルはヒカルでテレビカメラを気にして落ち着かずキョロキョロしまくっている。
「打ってるとこがテレビに映るのか?オレ達。日曜の昼にやってるやつみたいに… 」
「会場向けのモニターに映し出されるんだよ。あとネットでも流されるらしい。映すのは
盤面だけだから…」
とアキラに説明されたものの、やはり動揺は隠せないらしい。
今さらながらこの大会の規模の大きさを実感させられる。
落ち着きをなくした社とヒカルとは別にアキラはいたって普段通りだ。むしろいつも以上に
静かに威厳を放ち、声高に打ち合わせをしていたスタッフらもアキラが席に座り集中力を
高めるように目を閉じるのを見て、声のトーンを落とす。
夕べアキラを「何か変やで、お前ら」と宥めたつもりの社としては面目が立たなかった。
(…何でこんなに緊張しとるンや、オレは…)
飲まれた気持ちを切り替えるために社は一度外に出た。
そこで、観客としてパンフレットを受け取る人の列の中に越智の姿を見つけた。
越智もこちらに気付くと真直ぐに睨み返して来た。
「…越智…」
その視線を受け止めて社は頭が冷えた。


(22)
本来なら、この場所にいるのは越智だったのだ。
棋士としてのプライドと潔さで彼はせっかく手にした代表の座を再び賭けて自分と勝負した。
瞬時に社にあの時の自分を思い出す。いかに自分が思い上がった、強い者を知らない井の中の
蛙であったか。
アキラの強さを、深さを知らず、思いのままに出来ると勘違いしていた。
「…カメラとか…ネットとかがなんぼのものや…!」
越智のおかげで今度こそ普段の自分を取り戻す事が出来そうだった。

「お願いします」
中国の大将と向かい合い、アキラは頭を下げた。少し離れた場所で社の、そしてヒカルの戦いも
始まった。タイトルリーグ戦で熟練の高段者との戦いを重ねているアキラにとって、同世代の
強者との一戦はある部分新鮮であった。ホームである分こちらが有利なのは十分わかっている。

アキラも夕べはあまり眠れなかった。一晩かけて己の中の闇がかった炎と戦い、浅い眠りで
何度も目を覚まし朝になってしまった。
ただその炎に打勝つ事は出来た。
疲労感は強かったが頭の奥の芯は冴えざえとし、研ぎすまされているのがわかる。
自分が調子を崩せば、それが理由でヒカルが大将になる可能性もある。それだけは避けたい。
やはりヒカルと高永夏を戦わせたくない。
ヒカルが高永夏と戦いたいと言う意地があるなら、自分にだってすんなりヒカルに大将の座を
渡すわけにはという意地がある。



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