Trick or Treat! 21 - 22
(21)
「ん・・・ん・・・っ、んぅ・・・っ?」
自分の唇をアキラの唇に押しつけ、むにむにと無闇に動かしながらその感触を楽しむ。
弾力のある柔らかな唇肉の向こうに、それが生え揃うまでを見守ってきた
繊細な歯の存在を感じる。その向こうには自分が良く知っている温かな口腔がある。
唇を触れ合わせたまま上唇と下唇を交互に食むように軽く吸い、それから改めて
唇全体を強く吸い上げ、今度こそきちんと音を立てて離してやった。
「・・・・・・?」
キスの名残りで少し濡れた唇を光らせながら、アキラは肩を上下させて緒方を見た。
潤みかけた黒い瞳には、警戒と不信と幾らかの期待と、灯りはじめた甘い熱とが
一緒くたになって揺れている。
その瞳の色をつくづくといとおしみながら、緒方はもう一度アキラの唇に口付けた。
ん、とアキラが身を捩ろうとする。
それを押さえてもう一度。
顔を背けて逃げようとするのを固定してもう一度。
寝室の中にチュッ、チュッとわざとらしいくらい可憐で一途なキスの音を
途切れることなく響かせた。
「ん・・・ふぅっ、おゎ・・・おぁたさっ、・・・ど、して・・・」
片時も離れない唇に発音を妨害されながら、アキラが懸命に聞いた。
「なんだ?よく聞き取れないぜ」
一息つくように唇を離し、アキラの顔の上に覆い被さるように両肘をベッドに突いて
瞳の中を覗き込む。
出来るだけ真面目くさった声で言ったつもりだったが、目が笑っていたのだろう。
潤んで揺れていた黒い瞳がむっとしたように強い光を宿し、緒方を睨みつけた。
(22)
「・・・やっぱり、からかってるんじゃありませんか。何で急に、こんなこと」
「キスして欲しかったんだろ?」
目で笑いながら言ってやるとアキラの顔が見る見る赤く染まり、眉間に皺が寄せられる。
ぐっと悔しげに緒方を睨みつけるその目には、だが少し哀しそうな色が宿っている。
潤んだ目から目尻へと光るものが溜まり始め、
緒方の下のアキラはべそを掻きたいのを必死で堪えるような表情になった。
――ちょっと突付いたら、たちまち溢れ出て泣き出してしまいそうだ。
自分はアキラを泣かせるのが上手いと思う。
滅多に泣かないアキラの心身の弱い所を自分は良く知っていて、
そこを突付いては泣かせてみたくなってしまう。
だが一生こんな風に傷つけて泣かせてばかりいるくらいなら、
自分などさっさと死んでしまってアキラを自由にしてやったほうがいいのだ。
緒方はふっと表情を和らげ、静かにアキラの瞳を覗き込みながら言った。
「・・・すまん。少しからかった。・・・本当は、おまえがして欲しがるから、じゃない。
・・・オレだ。オレが、おまえにキスしたい。今まで足りなかった分も、全部だ。
そして、これからも一生、おまえにだけキスしたい。おまえにキスして、おまえに触って、
毎日暮らしたい・・・んだぜオレは」
最後のほうは恥ずかしくてつい口籠もった。
こんな告白をするなど初めてな上に、自分の言葉が進むにつれて
アキラの目が大きく大きく花が開いていくように見開かれて揺れるので、
くらくらしてきた緒方は自己防衛のため目を閉じた。
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