平安幻想異聞録-異聞-<外伝> 21 - 22


(21)
「好きだから、最後ぐらい何か言って欲しかったよね。一緒にいたかったよね」
噛んだ唇に押さえこまれ、行き場を失って体の中を彷徨っていた言葉が、やっと出口を
見つけたように口をついて出た。
「ホントだよ、……あの馬鹿、俺の気もしらないで……」
悲しいのに、出てくるのは憎まれ口だというのは、どいうわけだろう。
あかりが、言葉の続きを即すように、ヒカルの指を強く握りしめた。
自分が彼女に何を言おうとしてるのか、ヒカル自身にもよくわからなかった。
「佐為が、……佐為が死んじゃったんだ……」
「うん」
ただ、胸の奥からせり上がってくる痛みに任せて、言葉を口に登らせる。
「佐為が、俺を置いて……、俺に何にも言わずに死んじゃったんだ……」
「うん」
「俺とずっと一緒にいたいみたいなこと言ってたくせに、全部ウソにして……!」
「うん」
「あの馬鹿……っ!」
今さっき、聞いた言葉が耳に蘇った。
どうせ、死ぬんなら、ちゃんと自分の元に来て欲しかった。そしたら――最期に息を
しなくなるまで抱きしめていてやるのに。
気がつけばヒカルは、あかりの膝の上に身をすがらせるように伏せて、泣いていた。
佐為がいなくなって以来、初めてだったのだ。大声を出して泣くのは。
そんな風に、我を忘れて泣くのは。

泣いている間は、ようやく吐き出せたもので頭が一杯で、声が誰かに聞こえるかも
知れないとか、男のくせに恥ずかしいとか、そんなことは考えられなかった。
自分が将来、どこかの姫君と結ばれて跡継ぎを作ってくれることを夢見る家族には
言えない事だった。友人である以上に、分野は違えどお互いに技の高さを競い合う
仲間と思っていた賀茂アキラには見せたくない醜態だった。ともすれば、そうした
人の関わり合いや死をいいように脚色して、わざとらしく涙にくれたり笑いものに
したりする殿中の人々には、決して知られたくないことだった。
しかし、幼いころ裸でじゃれあったこともあるこの幼なじみの前では、そんなことを
いちいち考えるのが馬鹿馬鹿しいように思えた。


(22)
あかりは、ヒカルの悲しみも悔しさも後悔も、そのまま真っすぐに受け取ってくれる。
昔、河原で遊んで、一緒に笑ったり怒ったりしていた時みたいに。
あかりの手が、自分の髪を猫を撫でるみたいに梳いてくれているのがわかった。
ようやく、涙の止まりかけたヒカルの鼻に、新しい絹の匂いが心地いい。そして、
その奥のふわりとした、女独特の甘酸っぱいような懐しいような体臭。
それに酔ったみたいに、ヒカルは無意識に、顔をあかりの腹に押し付けるようにして
いた。そのあたりは布地の匂いの方が強かったので、目を閉じ、あかり自身の香りを
求めて、強く胸のあたりに顔をうずめる。
そして、気付いたら、あかりを下に組み敷いていた。
自分のしたことに驚いたみたいに動きを止めてしまったヒカルに、あかりが組み伏せら
れたまま笑いかけた。
「ヒカル、目が真っ赤だよ」
ちょうどその時に、喉から泣きじゃっくりまで突いて出て、ヒカルはようやっと少し
恥ずかしくなった。
「俺、カッコ悪いかな?」
「ヒカルが格好良かったことなんてあったかなぁ」
「言ったな」
ヒカルはまだ涙の乾かない赤い目のまま、あかりの首筋に軽く噛みついた。

初めて触れる女の子の肌は、ふわふわと危なっかしいほどに繊細で、今まで自分が
知っているどんな肌よりも皮膚が薄くて、すぐに破けてしまいそうだった。そのくせ、
どんな強く圧しても、より強くこちらに押し戻してくるような弾力があって、変な
感じだ。
昔、じゃれあって遊んでいたころのあかりとは全然違っていた。体のどこもかしこも
まろみを帯びて温かく、ふわふわしている。
中の襞はぬるくヒカル自身を包んで、抜き差しを続ければ次第に熱を持って、しまい
には焼けるように熱くなった。



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