金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 21 - 22


(21)
 駅のすぐ側に、小さな公園があった。辺りに人気はまったくない。いくら何でも静かすぎないか?
デート帰りのカップルが立ち寄るには早い時間なのだろうか…。人気のない場所にヒカルを
引っ張り込んだと、誤解されはしないかとドキドキした。

 アキラは、手近なベンチに彼を座らせ、自分も隣に腰を下ろした。ヒカルは未だに
シクシクと泣き続けている。
「悪かったよ…」
二度目の謝罪を口にする。
「……で………だよ………」
ヒカルが何か言ったが、しゃくり上げながらだったので聞き取れなかった。
「何?」
「なんで…オレには…意地悪ばっか…するん…だよ…」
―――――え?何?意地悪?ボクが?進藤に? 
アキラはポカンと口を開けた。
「他のヤツには優しいのに……オレには怒ってばっかだし…」
「ちょっと冗談言っただけで…すぐ“ふざけるな”って怒鳴るし…」
確かにヒカルの言う通りだ。
―――――でも、それは………
親愛の情の表れというヤツだ。他の連中のことなど、ほとんど眼中にないのだ。視界に入って
こないものに対して腹を立てる必要などない。ヒカルだから――ヒカルのやることだから
何でも気になるし、目につくのだ。
 だけど、それがヒカルには伝わっていなかった。
『ちょっと、ショックだ…』
親しい相手にだけ見せる本当の自分を、ヒカルも理解してくれていると思っていた。でも
それは、どうやら自分の思いこみだったらしい。アキラは反省した。


(22)
 ヒカルは、尚もアキラを責める。
「オマエがオレを連れてきたくせに……」
その言葉に、また混乱しそうになった。自分がヒカルを何処に連れて行ったというのだ?
ここのことを言っているのだろうか?
「自分の想像と違ったからって…ほっぽり出して…知らん顔して…」
ヒカルは手の甲で目を何度も目を擦りながら、しゃくり上げた。
「オマエがこっちの世界に連れてきたくせに…!」
 そこまで言われて、漸く気が付いた。ヒカルが言っているのは囲碁のことだということに………
―――――確かに、返す言葉もない………
だが、あの時は期待していた分ショックも大きかった。彼の言うところの“ほっぽり出した”
時でさえ、本当のところ気になって気になって仕方がなかった。
―――――要するに、ボクは素直じゃないんだ………
ことヒカルに対しては余計にそうなってしまう。そのくせ、他人に彼をバカにされるのは
ガマンならない。
 ヒカルに関しては、全て自分に優先権があると勝手に思いこんでいる節がある。自分でも
いけないことだとわかってはいるのだけど………
―――――彼を貶しても良いのはボクだけだ……それから、彼の良いところも理解しているのも
ボクだけだ………他の人の目に触れさせたくないんだ………
 ヒカルは俯いて泣きじゃくっている。ヒカルの言葉は、本心からか酔っているためかは
判断つきかねた。
 
『……………あれ…?前にもなんかこんなことがあったような気がする………』
ヒラヒラしたスカート。右へ左へヒラヒラヒラヒラ。軽やかに…泳ぐように…ふわふわ…
ヒラヒラ……ベンチに広がるヒカルのスカート。色が赤なら、まるでガーベラの花のようだ。
………花?…ヒラヒラと水の中を漂う小さな赤い花…それから、大きな目…悲しそうな…
 そして、アッと小さく叫んだ。
―――――思い出した……!
アキラはヒカルの姿に重ねていたものを漸く思い出した。



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