失着点・境界編 21 - 22
(21)
「えっ…、でも…、」
恥じらった表情を見せてアキラはヒカルの手を振払って行こうとした。
「浴びなくていいって言ってるだろ。」
感情の起伏の無いヒカルのものの言い方に、アキラはいつもと様子が違う
事を感じ取った。
「何かあったの?…進藤。」
「…何かあったのはそっちの方じゃないのか?」
「…どういう意味?」
アキラは直感でヒカルの言葉の意味を察知し、すぐに険しい目つきになった。
「へええ、疑っているんだ。ボクの事を…。」
ヒカルはフッと苦笑いした。図星だからだ。和谷の言っていた噂話が確かに
頭のどこかに引っ掛かっている。
「そうだよ。だから確かめたいんだ。お前がシャワーを浴びる前に。」
アキラの腕を掴む手に力を入れる。
「お前」と呼ばれて一瞬アキラは驚いたようだった。
「確かめさせてくれるよな、塔矢。」
強い態度のヒカルに対し、アキラはひどく動揺するような顔色に変わった。
微かに唇が青ざめて肩が震えている。視線もヒカルからそらしている。
「…わかったよ。」
視線をそらしたままアキラが答える。
「…好きにすればいいだろう。」
それがどんなにアキラにとって屈辱的な行為となるかは明らかだった。
(22)
ヒカルは視線をそらしたままのアキラの顎を持って顔を寄せた。だがアキラは
昼間のように唇を求めに来なかった。
ヒカルはあっさりとキスを諦めるとアキラのズボンのベルトを外した。
そしてベッドに横たわるよう視線で指示する。
「…明かり…」
アキラが小声で言う。
「消したら見えないだろ。」
今までの自分の事をまるっきり棚に上げたようなヒカルの対応にアキラは
唇を噛み締め、腹立だしさを抑えきれないように体を震わせていた。
ベッドに腰掛けたアキラから下半身の衣服を引き剥がし、うつ伏せに
寝かせる。アキラは怖いくらいに従順だった。
アキラの剥き出しになった双丘が蛍光灯のしたで白く浮かび上がる。
ヒカルもベッドに乗り、シャツをたくし上げて愛おしくその双丘を撫でる。
今まで冷静だった心臓がドクンドクンと少しづつ強まっていく。
アキラは人形のように動かない。
ここが…アキラの…
両手の平をそれぞれの二つの丘の上に置き、ゆっくりと左右に割る。
わずかにアキラが小さく声を漏らしたような気がした。
不思議な事にヒカルの心の中にこれからする事によってアキラを
失うかもしれないという不安は、微塵も起こらなかった。
むしろ、行き着くところまで完全に行か着かない事の方がアキラを失う事に
なりそうに思えた。
|