眩暈 21 - 24


(21)
入り口を緩やかに撫でていたアキラの指が、おもむろに割入ってくる。
「あぁ!ひゃあ…ん、あん―――ぅうっ、やぁ……ひゃう…ン…」
無遠慮に中を掻き回され、バラバラに指を動かされると、ヒカルはもう我を忘れて快感を拾うのに必死になった。
その脚の付け根が痙攣したように震え、半開きになった口からは涎が垂れ始めていたが、逆にその淫らな表情が
アキラの熱を更に煽る事になった。内部を嬲っていた指を抜き取り、太股を持ち上げるようにして抱えあげて、
指の代わりにアキラの勃起したペニスを押し宛てると、ヒカルは切ない吐息を漏らして、自然に体を弛緩させた。
「ヒッ…あああっ――――――……!」
一気に腰を落として貫く。その強烈な刺激にヒカルは背中を弓なりに反らせて、ビクビクと大きく痙攣した。
「クッ…しんど、うっ……ん、力抜いて…」
「あぁぁ、だ…めぇ…ひゃっ…とお、や…ンゥ……ハッ、あぁ…」
体に力が入ったままどうすることも出来ないでいるヒカルのうなじを軽く噛むと、僅かにその緊張を緩めた。
途端にアキラは大きく腰を動かして、下からヒカルを容赦なしに突き上げる。
ぬちゅぬちゅと熟れて潰れた果実のような音が聞こえてきて、ヒカルは羞恥に耳を塞ぎたくなる。
それでも、指では届かなかった奥を掻き混ぜられる快感に、よがり声を上げながら自然に腰が揺れてしまう。
「あっあっ、あああ、ん!と…とおやぁ…とおやぁ……ふぁん、ア…ゥン…ひぅ…」
「んっ!―――…はぁ、ああ…しん、どう……フフ、いい眺め…」
ヒカルの足を更に開くと、アキラ自身を飲みこんでその形に大きく広げられた下肢が鏡に曝け出された。
そこからぐちゃぐちゃと互いの精液が泡立つように混ざり合って浴室に淫猥な響きを作り出していた。
その己の痴態は例えようも無く恥ずかしいはずなのに、ヒカルは何故かそこから目が離せなくなった。


(22)
「やっ、あっ…ああっ、ひゃ…ん、んんぅ…やだぁ…」
快感からか羞恥からか、涙を溢しながら快楽を貪るヒカルの淫靡な姿に、アキラも最早歯止めが効かない。
「ああ、進藤…イヤらしいキミも、可愛いね…ふっ、ん…はぁ―――…気持ち、イイ…」
「やぁ、…見んな…ぁあ―――ひゃああ!…やだ、よぉ…ああっ、あぁん!」
「うそだ…本当は、ボクに…ン、こうされるのが、好きなんだろう…」
「ちがっ…!あぅん…とうや…はぁ、ああっ…も、もう…」
お互いに限界が近かった。アキラは動きを早め、まるで叩きつけるようにヒカルを突き上げる。
「ああっ!あんっ!ひゃああ…ひゃあ、あっ、も…でるぅ…!」
一際深く内壁を抉られるように擦られると、ヒカルはその衝撃で張り詰めていたペニスからピュッと体液を飛ばした。
到達した瞬間、中のアキラ自身を引き絞るように締めつける。強烈な刺激にアキラもヒカルの奥に飛沫を放った。
「うっ…進藤、はっ、んああっ!」
「ひゃっ、あっ、ああっ――――――!」
アキラの断続的な射精に合わせて、ヒカルの体も大きく痙攣した。お腹の中にアキラの熱と快感が広がっていく。
「…進藤…」
「……………熱い…」
視界が真っ白になっていく。そのままヒカルはアキラの腕の中で意識を失った。


(23)
午後11時を告げる時計の鐘の音に、ヒカルは暖かな布団の中で覚醒した。
ちゃんと後始末され、浴衣が着せられている。目が覚めたヒカルの前に現われたのは、アキラの寝顔だった。
無心に眠るあどけないその表情は、さっきの情事など微塵も感じさせない。ズルイとヒカルは思った。
「…可愛い顔しちゃって」
手を伸ばしてアキラの頬にかかる柔らかな髪をさらさらと撫でる。どこまでもきれいな造形。
しばらくそうして感触を楽しんでいると、やがてアキラが目を覚ました。
「ン……進藤?」
「うん…ゴメン、起こしちゃったな」
「いや、今何時?」
「11時だよ…何で?」
「そうか…」
アキラは安堵したように息をつくと、ヒカルの胸に額を寄せて甘えるように擦り寄ってきた。
ヒカルはアキラの頭を大事に掻き抱いて、何度も髪を撫でつける。
そうしてしばらくヒカルの鼓動を聞いていたアキラが、ゆっくりと口を開いた。
「…今日は、ゴメン…どうかしていた。いや、今日だけじゃない…ボクはキミのことになると、まるで
 自分を忘れてしまう、いつも…」
「…いいよ、気にすんなって…オレなら、大丈夫だから」
「うん…それでも、ボクはいつもこうだ。いつキミに愛想をつかされても、おかしくないな」
「そんなこと…」
「それでも、今日だけはキミと一緒にいたかったんだ…今日だけは」
体温を伝えるように、アキラはヒカルに体を密着させるように擦り寄らせる。
「キミがボクを放っておいて他の人達と楽しく過ごしているのが許せなかった、ボクの傍にいてくれない
 キミに腹が立って仕方がなかった」
「……」
「分かっている、これはボクのエゴだ。ボクはキミに何も言ってなかったし、キミは知らないんだから。
 でも、今日は両親もいない、ボクは一人ぼっちで、誰もボクの隣にいてくれない」
「塔矢…」
「…今日は、ボクの誕生日なのに」


(24)
アキラの声が揺れた気がした。ヒカルは髪を撫でる手を止めて、アキラの顔を覗きこんだ。
「芦原さんがお祝いだって言って居酒屋に連れて行ってくれたけど、そこでキミの姿を見て気も漫ろだった。
 ボクには向けてくれた事の無い笑顔を他人に見せて、ボクの大事な日を知らずにいるキミに八つ当たりしたくなって…」
それで電車の中であんなことをしてしまったんだ、とアキラは言った。
「でも、あんな事をしておきながら、今こうやってキミが隣にいることが嬉しいんだ。…卑怯だと軽蔑してくれて良い」
ヒカルは緩やかに首を振る。アキラの切ない心に涙が出そうだった。アキラはヒカルの胸に擦り寄って懺悔を続ける。
「進藤、ごめん…許してくれなんて言える立場じゃないかも知れないけど、それでもキミと一緒にいたいんだ。
 キミに嫌われるのが怖い、キミを誰とも共有したくない、ずっと傍にいて欲しいんだ。でも、どうしようもない。
 訳が分からなくて、苦しいんだ。ボクは、どうしたらいい?」
アキラの言葉は、ヒカルの胸を締め付けた。どうしようもなく愛しさが込み上げて来て、アキラの頭を優しく抱き締める。
「塔矢、オレ達もっと話をしよう。もっと色々分かり合えたら、もしかしたら先も見えるかも知れない。
 そこまで行くのは大変だろうけど、でもオレ、お前とだったら出来る気がするから。
 だからオレ、お前の事もっと知りたいよ…もっと、いっぱい知りたい」
それはヒカルの正直で真剣な気持ちであり、そしてアキラもまた同じだった。アキラは震えそうな声でやっと返事をした。
「それは、そうだ…勿論。ボクだって」
「ウン…それから、ゴメンな。誕生日おめでとう、塔矢」
ヒカルの優しい声音に、アキラは静かに泣き出した。嗚咽するアキラを抱き締めながら、ヒカルはゆっくり目を閉じた。

<終>



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