Linkage 21 - 25


(21)
 しばらくは余裕からか空いた手で熱く屹立したアキラのペニスに刺激を加えて
いた緒方だったが、アキラの肉壁が自身のペニスを以前にも増して強く擦り、
締め付けてくるのを感じると、降参するかのようにアキラの腰を両手でしっかり
固定する。
アキラが腰を落とすタイミングを見計らって、緒方は一息に腰を突き上げ、
アキラの最奥に再び精液を噴き上げた。
「あッ……はァ…ァンッ!!」
 アキラは髪を振り乱して背を弓形に仰け反らせながら、部屋中に響き渡る
ような嬌声を上げ、緒方の上に果てた。
一瞬の沈黙の後、部屋は緒方の上に倒れ込んだアキラの絶え間ない呼吸音に支配
される。
 うっすらと汗の浮いた胸に幾度となく吹きかかるアキラの熱い吐息に
くすぐったさを覚えながら、緒方は汗で頬や額に貼り付くアキラの髪を掻き上げ、
優しく手櫛で整えてやった。
そして覆い被さるアキラの上体を軽く抱きしめると、静かに虚空を見上げた。
(随分大きくなったものだな、アキラ君も……)
 アキラが幼少の頃から側でその成長ぶりを具に見続けてきたからこそ、肉体的な
関係を結んでいる今でも、そう思わずにはいられない瞬間がある。
(昔とは大分状況こそ違うが……今でもこういう重さは嫌いじゃないな……)
 いつからこういう関係が始まったのか……そんなことに思いを巡らせようとして
いる自分に気付き、緒方はアキラに気取られない程度に軽く頭を振った。
心地よい疲労感に包まれながらも、微かな不安が緒方を捕らえて離さない。
自分とアキラを繋ぐものは何なのか……。
恐らくそれは愛情でもなく、かといって憎しみでもない。
だが、女を抱くときのようなドライな性欲とも明らかに異なるもの……。
「答を求めることが全てではないか……」
 低くそう呟くと、虚空を見上げていた視線を胸の上でまだ僅かに荒い呼吸を
しているアキラへと移す。
アキラは緒方の視線に気付いたのか、少し顔を上げた。
「これだけ疲れているのに眠れないんだな、アキラ君は……」
 アキラの艶やかな黒髪を撫でながら、緒方は戸惑った表情のアキラを見つめて
言った。


(22)
 アキラの寝付きが悪いのは今に始まったことではない。
塔矢夫妻の留守中に幼いアキラの子守をするため塔矢家に泊まり込むことが
少なからずあった緒方は、アキラがそう簡単に寝付かないことは重々承知している。
だが、最近のアキラの寝付きの悪さは、その頃とは明らかに異質のものであった。
「……いつもの、いいですか?」
 消え入るような小さな声で尋ねるアキラの髪を緒方は指先に絡め取った。
「依存性の高い薬じゃないが、毎晩服用というのは感心しないな。まあ、毎晩
これだけ激しい運動をしても寝付けないなら仕方ないか……」
 緒方はそう言って覆い被さるアキラの身体を抱き上げ横に寝かせると、
ベッドから起き上がった。
アキラが爪を立てた背中に手を伸ばして傷跡を確認すると、アキラの方を振り返り
肩をすくめて笑う。
「これじゃ毎晩格闘技だな、ハハハ。寝る前にシャワーを浴びるか?」
 アキラが申し訳なさそうに首を振るのを見届けると、緒方は床に放ってあった
バスローブを拾い上げて肩に羽織りながら部屋を後にした。
アキラは小さく溜息をつくと、ベッドの端に追いやられた羽布団を引き寄せて
くるまり、背を丸め、膝を抱えながら緒方が戻るのを待った。


(23)
 アキラが緒方とのセックスで、シャワーを浴びる気力も無くなるほどの肉体的な
疲労感を感じるのは毎夜のことだった。
にもかかわらず、絶頂の後、崩れ落ちるように緒方の胸の中に倒れ込んでも、
眠りの淵に吸い込まれていくどころか、むしろ眠気を寄せ付けまいとするかの
ように、アキラの頭は冴える一方だった。
休息を求める肉体的欲求に応えようとすればするほど、その努力を嘲笑うかの
ように思考の波は押し寄せてくる。
緒方の所有する薬を服用することが、その思考の波に抗う唯一の術だった。
 毎晩服用するのは感心しない……、抱え込んだ膝の上に気怠そうに顎を乗せ、
アキラはそんな緒方の言葉を思い出した。
そもそも、その薬は自身も多少不眠症の気がある緒方が以前から服用しており、
ふとしたきっかけからアキラも服用するようになったものである。
その薬が存在しなければ、緒方との肉体関係も始まることはなかっただろう。
皮肉なことに、今やアキラの服用量の方が緒方のそれを圧倒的に上回っている。
「……誰のせいだと思っているんだか、緒方さんは……」
 緒方がアキラを心配して投げかけた言葉であるとわかってはいても、そこに
一抹の悪意を感じずにはいられず、アキラは吐き出すように呟いた。


(24)
 程無くして緒方はステンレス製のトレイを片手に持ち、部屋に戻ってきた。
水の入ったグラスと薬の小瓶とスプーン……アキラが眠りにつくために今や
欠かせなくなったものがトレイには載せられている。
緒方はトレイをサイドテーブルの上に置くと、アキラに確認するように言った。
「毎回しつこいようだが、量には気をつけてくれよ。昏睡状態は勘弁して
もらいたいんでね」
 アキラは小さく頷くと小瓶の蓋を開け、中の液体を注意深くスプーンで計ると、
グラスにその液体を注ぎ手早く掻き混ぜた。
グラスを手に取り一気に中身を空けると、複雑な表情を浮かべながら「ふうっ」
と大きく息を吐き出す。
「クックック。まあ、何度飲んでも美味くはないな、確かに……」
 アキラのなんとも言えない表情に苦笑しながら、緒方は空のグラスを取り上げて
トレイの上に戻すと、羽布団を広げ、のそのそとベッドに横たわるアキラにそっと
かぶせてやった。
「オレはシャワーを浴びてから寝ることにするんで、ちゃんとスペースを空けて
おいてくれよ」
 緒方は羽布団の上からアキラの身体をポンポンと優しく叩きながらそう言うと、
トレイを手にして部屋を出ていった。
アキラは緒方が出ていった方向をしばらく見つめていたが、やがて薬が効き
始めるのを待つため、静かに目を閉じた。


(25)
 薬の小瓶を冷蔵庫にしまい、グラスとスプーンを片付けた緒方が、アキラの
様子を確認するため部屋に戻った頃には、既にアキラは穏やかな寝息を立てていた。
「そう長くは眠れんだろうが、せいぜいいい夢を……アキラ君」
 情事の最中とは打って変わり、幼少時とそう変わらないあどけない表情で眠る
アキラの顔を覗き込むと、緒方は額を覆う前髪を掻き上げて、囁きながら静かに
唇を寄せる。
そして、僅かにずれた羽布団を直してやると、サイドテーブル上のライトを消し、
再び部屋を後にした。
 浴室で、緒方は壁に両手をついて下を向きながら、激しく降り注ぐシャワーの
湯を浴び続けた。
アキラが爪を立てた背中に、微かに湯が染みる。
「……つまりは、オレが追い込んだことになるのか……?」 
 降り注ぐ湯の音にかき消されそうな低い小声でそう呟くと、緒方は何事か
考え込むようにゆっくり顔を上げ、目の前の壁を睨みつけた。



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