少年王アキラ 21 - 25
(21)
オガタンは、アキラ王の着ている物を一枚一枚丁寧に脱がせた。
アキラ王は自分で服を着たことがなければ、脱いだこともないのだ。
オガタンは、アキラ王のその裸体の美しさに驚嘆した。
初めて見たわけではない。オガタンはアキラ王の主治医なのだ。
だが、今日はいつもの検診ではない。
これから二人はピ―――(X指定)を行うのだ。
アキラ王もこれから起こる事に対して、期待と不安で胸をドキドキさせていた。
肌がほんのりと桜色に染まっている。自分の裸を見られることには抵抗はないのだが、
あんまりじろじろ見られると居心地が悪い。
「オガタン…あんまり見ないでくれ…」
アキラ王が、頬を染めて言った。
『アキラ王が恥じらっている!?』
一生に一度、見られるかどうかわからないほどの珍事であった。
竹の花が咲くのを見るよりも難しいのではないだろうか?
『ハッ…竹の花だなんて…縁起の悪い喩えを…相当俺も動揺しているな…』
オガタンはクールな笑みを口元に湛えた。
一方、座間はアキラ王の部屋の前で悶えていた。
「あぁ…王が遂に…大人になってしまう…うぅ…しかも、オガタンがあの薬を…
私もまざりたい…」
そしてキッチンでは―――
「ちょっとぉー まだなのぉ 早くしてよぉ」
茂人と506がブーイングをしていた。
(22)
ガガガァ――――――――ッ!
突然、部屋のドアがスライドし、座間が転がり込んできた。部屋の様子を窺おうと、
身を乗り出しすぎたため、ドアのセンサーが反応したのだ。
「しまった!ロックを仕忘れていたか!?」
オガタンは、アキラ王の初めてを手に入れられることに浮かれすぎていた。冷静に見えても
オガタンも立派な成人男子。体の欲求がオガタンの注意力を奪っていたのだ。
「くっ!」
オガタンが唇を噛み締めた。ギリギリと音が聞こえそうな程に…。
可憐な執事は、ベッドの上できょとんとしている少年王と怒りに身を震わせる主治医を
交互に見つめた。その目は恐怖と期待に彩られていた。
「わ…私のことは、お気になさらず続きをどうぞ…」
(;´Д`)ハァハァと言う座間は既に内股前屈みである。そして、その場に座り込んで
股間を押さえた。
「座間殿…出ていってください。邪魔です…!」
怒りを押さえ込むようにオガタンが言った。
「いいえ!私は王の世話をずっとしてきたのです。見届ける義務があるのです!」
座間はきっぱりと言い切り、退こうとしなかった。
睨み合う二人にアキラ王が声を掛けた。
「オガタン…丁度いい…薬を使うとどうなるのか一度見せてくれ。」
「その効能を見てから、自分で試してみたい…」
その一言が、二人の明暗を分けた。
(23)
「王よ!」
二つの声が同時に響いた。
一つの声は歓喜にふるえ、もう一つの声は悲哀と怒号を含んだものであったが。
「…お待ち下さい、王よ!まさかこのような者に貴重な薬を使えとでも…」
オガタンは必死に言い募ろうとした。しかし、それはアキラ王には逆効果であった。
「オガタン!!」
アキラ王の声が室内に響き渡る。
「我が決定を覆せと言うのか?」
少年王の決定は絶対なのだ。いかなオガタンと言えど逆らう事は出来ない。
正に千載一遇のチャンスであった所を…!どこまでも邪魔をする奴め!!
期待に打ち震える執事を、視線だけで殺せそうな勢いで、オガタンは睨み付けた。
だが、その殺気のこもった視線が更に執事の期待と興奮をいや増している事に気付くと、
空虚な目眩を感じて、不覚にも足元がふらつきそうになった。
今までにも何度もチャンスはあったのだ。
だが、そのたびにこうやって執事や食事係、その他少年王に仕える諸々の者どもに
邪魔され続けてきたのだ。
そして今日もまた…オガタンはその無情な運命を呪った。
なぜ、いつもこうやって最悪のタイミングで邪魔が入るのか?
愛する我が王よ、やはりオレとあなたとは結ばれない運命なのか…?
オガタンはゆるりと振り返って哀切な視線をアキラ王に投げかけた。
そんな視線など意にも介さず、アキラ王はにっこりと微笑んでオガタンに命じた。
「さあ、薬の使い方を、その効能をボクに見せておくれ、オガタンよ。」
(24)
可憐な執事は、ベッドの上に優雅に座している少年王の足下に、恭しく跪いた。
そして、どこに隠していたのかアキラ王愛用の鞭を取り出し、王の前に掲げた。
「これは?」
王が座間に訝しげに訊ねた。座間は叩頭したまま答えた。
「あの薬は苦痛を快感に、快感はより深いものへと変えるのでございます。
ですから、王がその効能をお知りになりたければ、その鞭で私めを撲って
くださいませ。」
その方が見て解り易いと座間は言った。アキラ王は頷いた。アキラ王は
この手のことには経験値が足りないので、もっともらしい説明に納得してしまった。
オガタンは座間を睨んだ。座間の嗜好をオガタンはよく知っている。
だが、ここでよけいな口を挟めば、少年王の勘気を受けるであろう。
アキラ王は素肌にマントだけを羽織り、座間の側に立った。手首を撓らせ、
鞭を振り下ろす。
座間の体は、喜びに打ち震えた。
(25)
ピシィ―――――――!
鋭い音が座間の背中で鳴った。
「あぁ―――――」
座間は悲鳴を上げた。苦痛からではない。歓喜の声だ。
座間が悶える様をオガタンは一瞥し、それから徐に目を逸らした。
『み…醜い…!目が腐る!!』
オガタンは、鞭を振り下ろすアキラ王の方だけを見ることに集中した。だが、見たくない物程、
視界に入ってくるのである。男性のヌードを悲鳴を上げながら、指の隙間から見ている
おばさんのような物であろうか…?いや…ちょっと違うか……。
オガタンは、そういうつまらない考えで気を紛らわそうと必死になった。
アキラ王は執事の背を打ち続けた。座間が体を捩り、悲鳴を上げるのは痛みからだと
信じていた。
そろそろ薬を与えてみた方がいいのでは……。
アキラ王がオガタンに指示を仰ごうとしたとき、艦内放送が流れた。
ピンポンパンポ――――――ン
え、まもなく金沢に到着いたします。
お降りの方はお忘れ物のないようお気をつけください。
「着いたか!よし!座間、衣装と競馬新聞をもて!」
アキラ王は鞭を放り出し、悄然と打ちひしがれる執事に命じた。
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