白と黒の宴2 21 - 25


(21)
「ぐっ…っ、」
唸り声をあげて骨が折れそうになるくらい社がアキラの体を抱きしめ、アキラの唇を塞ぐ。
次の瞬間、今度はほぼ同時に二人は到達した。
互いに相手の脈動を感じながら全身を汗を滴らせ、荒い呼吸を繰り返す。
その間も社はアキラの唇を何度も愛おしげに吸い、アキラの頬を両手で包むと、社は
しばらくそのままアキラの顔を見つめてきた。
まただ、とアキラは思った。
獣のような荒々しい鋭い目付きとは別に、社には時折こうして慈しむような淋しげな瞳を見せる。
その目で軽く数回触れあわせる程度のキスをし、社はアキラの体をそっと抱きすくめ、髪を指で梳いた。
そうして行為の余熱が静まっていくまで二人は動かなかった。
「…うない…。」
小さな声で社が呟いた気がした。社は体を起こすともう一度アキラの顔を見つめて、言った。
「…あいつに…お前を渡しとうない…」
アキラは黙ったままだった。社が指しているのがヒカルの事なのか、そうでないのか分からなかった。
すると社はフッと笑った。
「…なんてな。まあ、今夜はこれくらいでガマンしとこ。」
そう言って社はベッドから下りるとアキラを抱きかかえるようにして浴室に連れていき、
シャワーのコックを捻った。
体を流す間にも何度となくアキラと唇を重ね合わせる。
アキラが何の感情も好意も自分に向けていなくても構わないという感じだった。


(22)
社はシャワーヘッドを片手にもう片方の手で丁寧にアキラの体の汚れを洗い流す。
「…北斗杯の間、オレが望んだ時にオレにつき合ってくれればいい。そうすれば
進藤には何もせん。」
「…まだ君が選手と決まった訳じゃ無い。」
「あの程度の奴には負けへん。お前もそう思うとるやろ。」
シャワーヘッドを壁に引っ掛けると背中にシャワーを浴びながら、
社は名残惜しそうにもう一度アキラに口付け、強く抱き締める。

その後、再び二人でベッドに戻り、明け方近くまでアキラは社と一緒に過ごした。
行為の作用でアキラが二度ほどトイレに行くのを許した他は社が離してくれなかった。
だからといってsexをするわけでもなく、ただ背中から抱き締められ横たわっていたのだ。
隣で社が寝息を立て始めたのを見計らってそっと抜け出そうとしたが、その度に
気配に気付いた社に捕まり、ベッドに引き戻された。
自分でも社の腕力にはかなわない。こうして彼の腕に捕らえられたら抜け出す事は出来ない。
ヒカルがもしも社に組み敷かれたら、それこそひとたまりもないだろう。
いつもゆったりした服を着ているが、その下のヒカルの体が驚く程華奢でか細いのを
何度か抱きしめた事があるアキラは良く知っている。
ヒカルの唇がどんなに甘く柔らかであるかアキラは誰よりも知っている。
そして社がどれ程一方的に攻撃的に責め立てるか知っている。
社に力ずくで抱かれ、恐怖と苦痛に喘ぎ泣き叫ぶヒカルの姿や表情を想像するだけで
アキラの背中に冷たいものが走った。
ヒカルを絶対そんな目に遭わしたく無い。


(23)
ひどく疲れていたが、眠る事はとても出来なかった。
一睡も出来ないまま朝になり、ようやく深く眠ったらしい社の腕から逃れる事が出来た。
服を着る間一度社が寝返りを打ち、アキラは息を飲んだが目覚める気配はなかった。
いつも相手を威嚇するように逆立てている髪が今はふわりと顔にかかっている社の寝顔は
年相応にあどけない。よほどアキラに気を許しているのか無防備に安らかに寝息を立てている。
彼なりに相当疲れているはずだ。
一瞬、彼を一人置いていく事に小さな罪悪感を感じた。寝過ごしたりしないだろうか、と考えた。
そんな自分に苦笑しそのまま一人でホテルを抜け出すとタクシーで家に戻った。
今なお、家にはアキラ一人だけだった。
検討会や仕事で遅くなった時は碁会所近くの事務所に泊まる旨を母親に伝えてあったので、
たとえ家を空けていても息子を信頼する両親にはさして怪しまれるところはなかった。

服を着替えてごく軽い食事を摂り、対局の時刻に合わせて棋院会館に向かった。
ほどなく社もやって来た。対局前、社とは顔を合わせないようにしたが、社の方からも
アキラのそばに近寄って来なかった。
目覚めた時隣にアキラが居なかった事に特に腹を立てているわけでもないようだった。
そうして棋院会館で社と越智との最終戦が始められた。
社が勝つ事は確信していた。棋院に来る事に抵抗があったが、選手が決まり次第
細々とした手続きや関係誌へのインタビュー、写真撮影等が待っている。
それにヒカルと共に彼等の対局を見守りたかったし、何よりやはり社が打つ碁は魅力的だった。


(24)
社が宣言した通り、対局が始まって程なく、越智が投了した。
「北斗杯のメンバーがこれで決まったな。」
という代表戦監督の渡辺棋士の言葉を、アキラは複雑な思いで聞いていた。

強い自信を見せていたとはいえ、社は全神経を対局に集中させ、最初から厳しい手で
あっという間に越智を追い詰めていった。
アキラは越智に対して多少の負い目があった。
去年のプロ試験の時の「あなたはボクを進藤の実力を計る物差代わりにしている」という
越智の怒りは当然のものだ。
今回の件も、越智を追い詰め、社との決定戦を越智に望ませてしまったのには少なからず
自分に責任があるとアキラは感じていた。
あの頃より越智は強くなったと思う。だが目の前で打ち交わされる対局は
二人の実力の差をより鮮明に残酷に浮き彫りにしてしまった。
そんな事を考えるアキラの隣で、ヒカルが目を輝かせて社の一手一手に反応していた。
できれば自分もヒカルと同じように興奮し、ヒカルと社と3人で中国と韓国の棋士らと
戦う事に純粋にときめきたかった。

終局後、三人で出版部での雑用を済ました後しばらく廊下でヒカルが社と何か話し込んでいた。
どういう話題で意気投合しているのか分からないが、会話する二人の間に笑顔がこぼれている。
それを見てアキラは唇を噛み、両手を握りしめた。
無邪気に社と会話をしているヒカルに何だか無性に腹が立ったのだ。


(25)
社はアキラをちらりと見ただけで、軽く手を振り、「北斗杯で」と一言だけ言うと廊下を去って行った。
その社の言葉が意味するものを、アキラは重い気持ちで受けた。
『オレが望んだ時にオレにつき合ってくれればいい。』
要するに北斗杯期間中、社の奴隷になるということだ。
ヒカルが社の後ろ姿を見送って、アキラの元に笑顔で駆け寄って来る。
「社、大会の時大阪の街を案内してくれるってさ。まあ、あまり観光する時間ないかもしれないけど。」
「…そう。」
「もし良かったら、下見を兼ねて一度大阪に遊びに来いって。社ン家に泊めてくれるって。

そう聞いてアキラの表情が強張る。
「オレ、行こうかな。大阪って旨いモン多そうだしなあ。…あれ?、どうしたの塔矢、コワイ顔して。」
「…何でも無い」
「なんだよ、気になるじゃんか。」
そう言ってヒカルがこちらの顔を覗き込み、澄んだ丸い大きな瞳を瞬かせた。
思わずアキラはそのヒカルの顔を捕らえて唇を重ねていた。
「んっ…っ!?」
ヒカルは驚いたように目を見開いて顔を振払おうとしたが、アキラが両手でそのヒカルの顔を押さえ、
強引に舌をねじ入れてヒカルの舌を探った。そのまま片手でヒカルの頭を押さえ込んで
片手をヒカルの服の中に滑り込ませて温かく滑らかな素肌を弄った。



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