Trick or Treat! 21 - 25


(21)
「ん・・・ん・・・っ、んぅ・・・っ?」
自分の唇をアキラの唇に押しつけ、むにむにと無闇に動かしながらその感触を楽しむ。
弾力のある柔らかな唇肉の向こうに、それが生え揃うまでを見守ってきた
繊細な歯の存在を感じる。その向こうには自分が良く知っている温かな口腔がある。
唇を触れ合わせたまま上唇と下唇を交互に食むように軽く吸い、それから改めて
唇全体を強く吸い上げ、今度こそきちんと音を立てて離してやった。

「・・・・・・?」
キスの名残りで少し濡れた唇を光らせながら、アキラは肩を上下させて緒方を見た。
潤みかけた黒い瞳には、警戒と不信と幾らかの期待と、灯りはじめた甘い熱とが
一緒くたになって揺れている。
その瞳の色をつくづくといとおしみながら、緒方はもう一度アキラの唇に口付けた。
ん、とアキラが身を捩ろうとする。
それを押さえてもう一度。
顔を背けて逃げようとするのを固定してもう一度。
寝室の中にチュッ、チュッとわざとらしいくらい可憐で一途なキスの音を
途切れることなく響かせた。

「ん・・・ふぅっ、おゎ・・・おぁたさっ、・・・ど、して・・・」
片時も離れない唇に発音を妨害されながら、アキラが懸命に聞いた。
「なんだ?よく聞き取れないぜ」
一息つくように唇を離し、アキラの顔の上に覆い被さるように両肘をベッドに突いて
瞳の中を覗き込む。
出来るだけ真面目くさった声で言ったつもりだったが、目が笑っていたのだろう。
潤んで揺れていた黒い瞳がむっとしたように強い光を宿し、緒方を睨みつけた。


(22)
「・・・やっぱり、からかってるんじゃありませんか。何で急に、こんなこと」
「キスして欲しかったんだろ?」
目で笑いながら言ってやるとアキラの顔が見る見る赤く染まり、眉間に皺が寄せられる。
ぐっと悔しげに緒方を睨みつけるその目には、だが少し哀しそうな色が宿っている。
潤んだ目から目尻へと光るものが溜まり始め、
緒方の下のアキラはべそを掻きたいのを必死で堪えるような表情になった。
――ちょっと突付いたら、たちまち溢れ出て泣き出してしまいそうだ。

自分はアキラを泣かせるのが上手いと思う。
滅多に泣かないアキラの心身の弱い所を自分は良く知っていて、
そこを突付いては泣かせてみたくなってしまう。
だが一生こんな風に傷つけて泣かせてばかりいるくらいなら、
自分などさっさと死んでしまってアキラを自由にしてやったほうがいいのだ。

緒方はふっと表情を和らげ、静かにアキラの瞳を覗き込みながら言った。
「・・・すまん。少しからかった。・・・本当は、おまえがして欲しがるから、じゃない。
・・・オレだ。オレが、おまえにキスしたい。今まで足りなかった分も、全部だ。
そして、これからも一生、おまえにだけキスしたい。おまえにキスして、おまえに触って、
毎日暮らしたい・・・んだぜオレは」
最後のほうは恥ずかしくてつい口籠もった。
こんな告白をするなど初めてな上に、自分の言葉が進むにつれて
アキラの目が大きく大きく花が開いていくように見開かれて揺れるので、
くらくらしてきた緒方は自己防衛のため目を閉じた。


(23)
しばらくの沈黙。
照れ臭くて目を開けられたものではない。
自分の下でアキラが小さく息をつく音が聞こえた。
それっきり何も反応がないのを不審に思ってそろそろと目を薄く開くと、
眼下には見慣れた大きな黒い目があり、それがぐんぐんぐんぐん近づいてくる。
――だからちょっと待て!今コイツとオレの距離は何cmになってるんだ?
そう思った瞬間長い睫毛がパサリと閉じて、
緒方の唇にあの日と同じ、優しいアキラの唇が押し付けられた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
ちゅっ、と小さな音を立てて唇が離れ、アキラの上体がばふりとベッドの上に倒れ込んだ。
腹筋だけで身を起こす体勢で口付けていたため、長く保たなかったらしい。
「はぁ・・・」
腕を左右に大きく投げ出し、天井を見上げてアキラが溜め息をつく。
何だか疲れたような、清々しいような顔で微笑んでいる。
「おい――」
それだけか?
このオレがあんな恥ずかしい思いをしてあんな台詞を言ってやったのにそれだけか?
と心に思う。
だが清々しく微笑んでいたアキラの瞳は見る見る潤み、
両の目尻からポロリと水が零れたかと思うと、アキラは枕を抱え顔を隠してしまった。
「どうした」
「・・・・・・」
アキラは答えず、枕の下で声を殺して泣いている。
枕をぎゅっと掴んでいるこの手も、あの頃に比べれば随分大きく育ったものだ。
「じゃあ、・・・嬉しいのか嫌だったのか、二択で答えろよ。・・・どっちだ」
「・・・れし、・・・れしっ、・・・うれしいです・・・」
ひどくしゃくり上げながら枕の下のアキラが答えた。
「・・・嬉しいなら、そんな枕なんかよりオレに抱きついて泣け」
枕を部屋の隅に放り投げ、キラキラと涙に濡れた瞳と目が合うと、どちらからともなく唇が触れた。


(24)
まだ時折小さくしゃくり上げながら、アキラは必死で緒方の唇に吸い付いてきた。
泣くことで熱を持った吐息が、ふっ、ふっ、と癇癪を起こしたような声と一緒に洩れる。
ぐいぐいと引き寄せられしがみつかれる首や背中が痛いほどだ。
「・・・おまえ、そんなにキスが好きだったのか?」
いつになく積極的なアキラに面食らいながら、だったら今までセックスをした時にも
もっと唇に触れてやればよかったと思いつつ緒方は呟いた。
アキラはまた泣き出しそうな顔になって、
キスが好きなんじゃなくて緒方さんとするキスが好きなのに、と言った。
アキラが言い終わるのを待たずに口付けた。

唇を吸っては触れるだけのキスから、舌を差し入れて温かな中をゆっくりと
掻き回してやると、アキラの舌がぴくんと起き上がって絡み付いてくる。
濡れた音を立てながら動きの不自由な口腔内での交歓を続けるうち、
溜まった唾液がアキラの唇の端から零れて、吐息には湿った甘い熱が混じり始める。
それを見て取った緒方は一際優しいキスをアキラの上唇に施してから顔を離し、
舌の代わりに右手の指を一本濡れた唇の中に滑り込ませた。

「んっ、・・・」
「しゃぶらなくていい。そのまま、口を開いておけ」
口腔の内部に溜まった唾液を指に掬い取り、赤い唇の裏側のごく浅い部分を
細かな動きで掻くように何度も擦ってやると、アキラの首から肩にかけてが
目に見えてびくりと竦み、首の後ろに回された両手に力が込められた。


(25)
「んぁ、・・・はぁ・・・っ、・・・ぁあ・・・」
「気持ちいいか?口の中も、粘膜だからな」
笑いながら緒方は指を二本に増やして更に奥へと差し入れ、温かで滑らかな頬の内側や
繊細な凹凸のある硬口蓋を焦らすように何度も撫でた。
「んっ・・・、んぁ、」
開いたままのアキラの口が次第にカクカクと震え始め、首に回されていた手が降りてきて
緒方の手首に添えられる。
「どうした?」
笑みを含んだ緒方の目と視線が合うと、アキラは反応を窺うように甘く潤んだ目で
緒方を見つめながら、そろそろと唇を閉じた。
「開いておくように言っただろうが」
優しく囁くだけで緒方が指を引き抜こうとはしないのがわかると、
アキラは嬉しそうに微笑んで両手を緒方の手首に添え、ニコニコと棒状のキャンディでも
しゃぶるように二本の指をしゃぶり始めた。
「指なんかしゃぶって、旨いのか?」
「んっ・・・」
答える代わりに嬉しそうな顔をして、アキラはぴちゃぴちゃと緒方の指を舐める。
「オレの指が、好きなのか」
「ん」
真面目な瞳で軽く頷いてからまた嬉しそうな顔に戻り、遊ぶようにちゅうちゅうと
音を立てる。
――今アキラが愛撫してくれているのは自分の指だが、それと同時に自分自身でもあり、
自分の全てだ。
この口がまだ食べる事も喋る事も出来なかった頃からアキラを知っている。
時を経て自分たちが今こうしているのは不思議なようでもあり、
また初めから決まっていたことのようでもあった。



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