裏階段 三谷編 21 - 25


(21)
彼の中に入ったまま彼の肩の下に腕を入れて彼を抱き締めた。
まだ機嫌を損ねた様子で横を向いていた彼の顎を手で捕らえて優しく口付ける。
種火を落とさぬ様彼の奥の特別な箇所を甘く刺激し続ける。
若い性は限界に来ていた。水を抱えた風船のようにほんの僅かな衝撃で弾ける寸前だった。
彼の唇は呼吸を求めて逃げ、それを追って塞ぐ。それをくり返しようやく彼はこちらの
要求に応じて口の中を解放する。彼の吐息も舌も未だ甘い。
取り引きのようにこちらの舌の動きに合わせて彼の方からも舌を絡めてくる。
幼く桜色に上気した頬と反抗的な光は鳴りを潜めた潤んだ瞳で再度こちらに哀願してくる。
一瞬迷い、こちらの都合は置いておいて彼を一度楽にしてやる事にした。
唇を塞いだままこちらが激しく動き出すと幾らも経たない内に彼の内部が熱くうねり、
痙攣しだした。譲歩した代わりに彼の声を封じた。

「先生」と呼ぶと、その人は少し戸惑うような笑顔を見せた。縁側が柔らかく日差しに輝く
六畳間の一室を自分にとって初めての門下生となる少年に与えた。「古くて申し訳ないが」と断り
自分が愛用していた机と椅子をそこに運んだ。
当時から「先生」の自宅には多くの棋士仲間が集い交流していた。そこに集う人々も皆明朗で闊達で
優しかった。自分がその中に居る事が許されていることが不思議だった。
朝目を覚ませば陰うつなあの自分を縛り付けた床の間の柱があるシミだらけの畳の和室のままであり
全て伯父に抱かれる途中で気を失った自分が見ていた夢なのではないかと思った。
碁を打つ度にオレの中で死んでいない伯父が蘇る。そして碁の他に伯父が厄介なものを
オレの体に遺していったせいだった。


(22)
ただその事を思い知るのはもう少し後の事である。
中学校は「先生」の母校を勧められた。「先生」とそこの学校長とでの話もついていたらしい。
が、結局他の学校に通う事になった。父親が選んだところだった。でももうそんな事はどうでも
良い事だった。「先生」はそれを親の愛情だといい週末の土日だけは自宅に戻る事を提案し、
オレはそれに従った。自宅に帰っても家族が居るとは限らない事が多かったがそんな事は「先生」に
伝える必要のない現実だった。あの人の元で碁を学べる。それだけで十分だった。
凍り付いていた時間は縁側から差し込む陽の暖かさで急速に溶かされていった。
伯父から学んだ打ち方が何の一片も残す事なく自分から抜け落ちるとは思わなかった。
早朝「先生」と共に起き一局を打つ。「先生」より早く起きたかったがそれはかなわなかった。
深夜に酔って帰って来た伯父に叩き起こされて碁を打たされた日々が日差しの光を浴びる毎に
薄らいでいくようだった。伯父が遺していったものが碁の精神と技術だけだったなら、
少なくとも知らず知らずに体が学び取り体に染み付いたものがそれだけであれば幾らでも
新たに学ぶものによって変化させ発展させあるいは凌駕していけたのだが。

彼の両手がこちらの肩を掴んで爪を立ててきたが皮膚に食い込むほどの力はなかった。
比較的長く続いた絶頂感を知らせる痙攣の後、締め付けるようにこちらの腰にかかっていた
彼の両足から力が抜けていき、同様に彼の両手がこちらの肩から滑り落ちていった。
強引に重ね合わせていた唇を離すと一瞬嗚咽のような彼の吐息が漏れたが彼自身がすぐに
制した。下腹部で彼が放った精の生温かさがこちらのシャツを通して伝わってくる。
彼は未だ自分の中で何ら変化を見せないこちらの存在に自分がまだこの場所から解放されない事を
感じとったようだった。


(23)
愛情を学ぶ前にまともとは到底言えない性行為を何度も強用される事が、その後の少年の人生観を
特殊なものにしてしまう事は想像に難くなかったはずである。それだけの思慮を持った大人が
それまで周囲に居なかった。
あの人との出会いは少し遅すぎて、そしてギリギリのところで間に合った。そんな感じだった。

「セイジ君は女の子にモテるでしょう」
夏間近のある日、放課後の人気のない理科の準備室である女教師の指が肩に触れて来た。
彼女が中学生にしては体格も容姿も大人びた風貌の少年に興味を持っていた事は感じていた。
その時異様な程心が冷め切っていた事を覚えている。ただ無性に何か腹立だしかった。にもかかわらず
その女教師―既にその時はただの一人の女でしかなかったが、関係を持った。
場所が僅かに違うだけで伯父が自分にした事を相手にしただけだった。女の汗と肉の臭いを嗅ぎながら
何かに復讐するように激しく抱いた。女は一方的に到達した。女とはひどく頑丈なものだと感心した。
己の体で支配できると思っていた年下の少年に無表情に卑下するように見下ろされている事に屈辱を
感じながらも女は今後も関係を持つように懇願して来た。なんの事はない。体の奥深くを抉られる行為に
慣れてしまった体にとって女を抱く事がさして重要ではなくなっていたに過ぎない。
おそらくその女教師も恋人にした事がないような、中学の性教育では誰も
教えようとはしない類の方法を一通り教え込まれていたのだから。
だがその日の夜「先生」と碁盤を挟んだ時、「先生」の目を見る事が出来なかった。
恥じるという感情を知った。
そんな自分ともただ黙って穏やかに石を手にする「先生」の傍に本当に自分はいていいのか迷った。
それでも許されるのであればこの人の傍に居たいと願った。


(24)
自分が穢れた魂だと思い知らされるだけだとしても無垢な魂に惹かれてしまう。
いっそ無垢な者達がこちらを拒絶してくれたら、彼等を憎む事が出来ただろうに。

静かになったこちらの体の下で彼もやはり静かだった。
激しかった動悸が収まりところどころに紅潮した模様を描いていた皮膚も元の透明な青白さを取り戻していた。
一時的に高まった体温であちこちを濡らしていた汗も室内の乾いた空気によって消えた。
微かな体臭と人工的な香料の微妙な混じり加減が彼の価値を高めている。
彼の腹部に描かれた白濁の模様と、変わらぬ熱と質量でこちらのモノが彼の奥深くを占領している
他は最初の地点に戻ったようだった。だが当然これで終わりではない。むしろ、これからだった。
ベッドサイドに手を延ばしてティッシュを取り彼のその部位を拭う。先端を包んだ時僅かにビクリと彼と
彼自身が震え、こちらを受け入れている箇所も狭まった。
体液を吸ったティッシュを丸めてベッド脇のダストボックスに投げ込み、直接彼自身を手で包み込む。
力を入れて根元を握ると鈴口から残りが滲み出て来る。雫程度のそれを親指で取り、彼の唇に塗ってやった。
両手を顔の両脇に放り出して放心状態だった彼もさすがにその行為に抗議するようにこちらを睨み付けて来た。
塗り付けたものを舌で舐め取るようにして再び唇を貪り、彼の内部で動き始める。
「…いかげんに…ろよ…!」
あまりに激しく吸い立てた事に閉口して彼が激しく首を振って顔を離した。その彼の両手首を押さえ付け
胸へと唇を移動し、しつこい位に乳首を責め立てた。同時に腰を激しく抽出させた。
「…は…あっ!」
一度鎮火した彼の体内を再び煽り立てる。時間をかけた前回と打って変わって今度はどれだけ短い時間で
彼が到達するのかを試すように、一気に、冷ややかに彼を追い詰めていく。


(25)
右手を離して固くなり始めた彼の陰茎を握り優しく揉みしだいてやる。こちらが突き上げる
タイミングに合わせて体芯をこねるように抜いてやる。
「や…めろ…よ…!」
彼の右手がそれを制しようとこちらの右手首を掴もうとして来たが、快楽に馴染み切った
若い肉体では抗い切れない様子で脇のシーツを握りしめるに留まった。
「…さ…いて…い…」
そう呟く事がせいぜい彼に出来る抗議の全てだった。
幾らも経たないうちに小さな悲鳴と同時に彼の腰が浮き上がりガクガクと震えた。手の中を
新たに吐き出た体液が濡らしていく。量こそは少なかったがひどく熱く感じた。
さっきと同じように押さえ込んで出来るだけその状態を長く維持させる。
悲鳴混じりの喘ぎ声がやがて完全な泣き声になった。
「や…だ、も…う」
その彼の足を抱え込みさらに奥深くを激しく突く。中を掻き回す。体液で滑らかさを増して
彼の陰茎を責め続ける。
「ひっ…う、う…ん…っ」
咽の奥から絞り上がるようなか細い悲鳴が断続的に漏れ、掴みどころなく崖を滑り落ちるように彼の手が
シーツを力なく掻きむしる。
「おね…が…もうやめ…」
そこまでしてようやく彼の内部でこちらも解放される時を迎えた。同時に彼も2度目の、
正確には3度目となる瞬間を与えられていた。
「アアーッ…ンッ!!」
幼い小動物の断末魔ような悲鳴を上げ、全身を大きくガクンガクンと打ち震わせて後彼は気を失った。



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