アキラとヒカル−湯煙旅情編− 21 - 25
(21)
「すげ・・・綺麗だ・・・。」
アキラのペニスを扱きながら、舌を硬く尖らせてアヌスに差し入れる。
「あっ・・・。」
今まで触れられた事のない部分への刺激に初めは戸惑うように反応したアキラだが、加賀の目前に己の恥ずかしい部分が晒されている羞恥が次第に快感へと変化してゆく。
加賀は、枕元の鞄の中からハンドクリームを取り出すと人差し指にとり、アヌスに深く飲み込ませた。
「あっ・・・・・・や!」
アキラが少し暴れた。指が締め付けられる。だが、瞼に口づけ、同時にペニスと突起への愛撫を加えるとすぐに大人しくなった。
ペニスを扱くたびに響くくちゃくちゃという音が、アキラの羞恥心を刺激する。。
「や・・・ん・・・ッン!アッ・・・っくっ」
大きな瞳は快感に潤み、せつなげな吐息が漏れる。
「もう、大丈夫だろう。」
加賀の方がもう、限界だった。
猛り狂ったものが、アヌスに押し当てられるとアキラは加賀にしがみ付いた。
「力、抜け。」
うなづいて、不安げに加賀の瞳を覗き込む姿に愛しさがこみ上げる。ペニスの先端を擦り、アキラが脱力したところを一気に貫く。
「ああっ。」
アキラの瞳から雫がこぼれた。身を固くされ、加賀のものが締め付けられるが、クリームを注入したせいか擦れるような感覚はない。むしろ、何度かピストン運動を繰り返すうちに、アキラの内部は次第に加賀に吸い付いてくる。
「アキラ・・・。」
硬く閉じられた瞼にキスを与えながら加賀は大きく体をグラウンドする。
そのたびに、小さな叫びがアキラの唇から漏れる。
身を起こしてアキラを抱きかかえながら、突き上げる。
「はぁんっ。ああ。」
喘ぐ口元から覗く、赤い舌を絡めとる。
「ああっ、あんっ・・・てっ・・・ちゃ・・・ボク、もう・・・。」
しがみつくと、アキラはネコのように爪を立てた。
「ああっ・・・っあっ・・ぁ」
がくがくと痙攣しながら反りかえり、アキラは射精した。
ほぼ同時に加賀もアキラの中に性を放った。
生も根も尽き果てるまで、その後も、何度もふたりはお互いを貪りあった。
(22)
窓を開けると、夜気が忍び込み、火照った体に心地よい。
加賀は煙草に火を点けると、うまそうに吸い込み、アキラにかからないように煙を吐き出した。
額に張り付いた前髪を梳き、額に口づける。無骨な加賀とはかけ離れて見えるそんな繊細な優しさを、アキラは知っていた。ずっとこの優しさを独占してきた。
アキラの瞳を覗き込むと、加賀は愛しそうにその頬を撫で、静かに笑んだ。
見つめあっていた視線を、アキラが、そらす。
その瞳から、次々と雫が生まれ、零れ落ちた。
「後悔してるのか・・・?」
とめどなく溢れる雫を吸い、加賀は問う。
「ボクは・・・利用したんだ。たぶん、自分が救われる為に、あなたを・・・。」
加賀は、しばらく宙を見つめる。
そして煙草の火を缶ビールの空き缶でもみ消すと、アキラの頬を両手で包み込んだ。
「このまんま、おまえ浚っていきてえよ。誰の手も届かねえとこによ。」
アキラをかき抱くと、その腕に力を込める。誰にも渡さないというように、大切にアキラを包み込み、抱きしめる。
強い眼差し。狂おしいほど激しくアキラを貫く、真摯な眼差し。
アキラの瞳から新しい雫が零れ落ちた。
「・・・・・・なんてな。・・・おまえに利用されるなら、本望だ。」
加賀はその涙に口づけると、優しげに髪を撫でた。
闇と穏かな沈黙が一時、ふたりを支配した。
(23)
「さあて、風呂行くか?」
断ち切るように、加賀が立ち上がる。
ふたりとも、体中、汗と唾液と体液にまみれていた。
だるい体を引きずって到着した誰もいない深夜の露天風呂で、いいと言うのに、加賀がアキラの体を洗うといってきかなかった。
「ガキん時はいつもこうしてやってたろ。 おまえ人に触られんの嫌いでオレにしか洗わせなかった。」
「そうだった?」
加賀の手が前に回り、首からへそに向けて石鹸をしみ込ませた手ぬぐいを滑らせる。
「あ、あとは自分で・・・。」
ちらりと加賀を振り向くと、硬く膨張した加賀のペニスが目に入り、あわてて目をそらす。
「気にすんな。」
加賀は飄々と笑った。
ライトアップが既に解かれていた露天風呂には月光が降り注いでいた。月は、峰を遠く離れ、高い位置に青白く存在している。
まるでこの世に己とアキラ以外存在していないような幻惑に駆られる。
だが、月光に照らされ、この世のものとは思えぬ美しさを湛えた傍らのアキラは、別のことを考えているのだろう。
「進藤の部屋にもどるか?」
問うと、アキラはすぐにかぶりを振った。
「オレは相変わらず素晴らしく寝相がイイはずだぜ。エルボーがおまえのキレイな顔、直撃するかもしんねーぞ。」
「そしたら、膝蹴りで大人しくさせる。」
「かなわねーな。おまえは遠慮ってものをしらねえからな。」
粛々たる露天風呂にふたりの笑い声が響き渡った。
笑うと急に幼く見えるアキラの顔がふと翳り、加賀の瞳を見つめると、小さくつぶやいた。
「てっちゃん・・・ありがとう。」
部屋に戻ると、汚れていないほうの布団にふたりはもぐりこんだ。
情事で疲れ果てた体に風呂が効いたのか、アキラはすぐに、小さな寝息を立てた。
加賀は・・・眠れなかった。
幼少時代からの思いを遂げたこと、だが、それと同時に思いを絶たれたこと。
体は疲労で重く沈み込むのに、頭の中には次々に妄想やらが乱れ飛び、加賀の心を乱した。
だが、一つの確信。
――これで最後かもしれない。こんな風にアキラの寝顔を見つめていられるのは。
加賀は、片腕で頭を支え、じっと動かなかった。
アキラが目覚めるまで、安らかに眠るその寝顔を、飽きることなく見つめつづけた。
(24)
「進藤・・・。」
アキラがゆすっても起きようとしないヒカルの布団を剥ぎ取り、加賀がけりを入れる。
「だぁ――っ! 痛えな。なにすんだよ。」
「てめえら、いつまで寝腐ってやがる。 メシ行くぞ。筒井もさっさと起きやがれ。」
筒井がボワーンとしたまま、起き上がる。
「あれ、メガネが・・・?」
テーブルの上に置いておいたメガネをアキラに差し出される。
「ありがとう。あれ?」
加賀とヒカルがじゃれあってる。そして、傍らで、陽光の中微笑む塔矢アキラの美しさに、筒井は息を呑んだ。
「うーん。」
「唸ってねえで、メシ行くぞ。」
加賀は、筒井の頭をポンと叩くと、一方向を見つめていた。
ヒカルと楽しそうに語らう塔矢アキラ。
「うーん。」
再び、唸り声を上げる筒井だった。
朝食を済ませると、ヒカルたちは仕事の関係ですぐに立たなければならず、4人はロビーで別れた。
「じゃあな。」とそっけなく言うと、加賀は後ろ手に手を振って、去っていった。
「進藤君、また会おうね。」
そう言うと、筒井もあわてて、加賀の後を追った。
二人が見えなくなるまで、アキラはその後姿を見つめていた。
(ごめんなさい。・・・ありがとう。)
ヒカルが清算を終えて、タクシーに乗り込むと、アキラはヒカルの手を握った。
「進藤・・・ボク・・・。」
「塔矢、ごめんな。せっかくの旅行だったのに、オレ酔いつぶれちまって。
だけど、オレ達にはたっぷり時間がある。これから少しずつでもいいからおまえに近づいていきたい。」
ヒカルがアキラの手を強く握り返してきた。
加賀に抱かれた事をアキラは後悔はしてはいなかった。あの時の自分には加賀が必要だった。
結果的に、加賀を傷つけることになったかもしれない。エゴイズムだと充分承知していた。
話せば、ヒカルは離れていくかもしれない。それでも、加賀とのことを、隠し続けることは出来そうになかった。
ただ、今はヒカルの手のぬくもりの中にいたい。アキラはそっと、ヒカルの手に口づけた。
(25)
「加賀ぁ。」
「なんだよ」
「・・・なんでもない。」
部屋では、先ほどから同じようなやり取りが繰り返されていた。
筒井は、座椅子にもたれながらテレビのワイドショーに見入る加賀の横顔を見つめていた。
加賀の様子が少しおかしいのは、夕べから薄々感ずいていた。それが塔矢アキラのせいであることも、長年の付き合いでなんとなく理解していた。
普通ならなんでも気兼ねなくお互いの中にズカズカ入り込んでゆくような加賀と筒井だったが、このことに関しては、なぜか聞きあぐねていた。
「塔矢アキラってさぁ」
決意の果てに口にした言葉に加賀のこめかみがぴくりと動いた。
「・・・・・・けっこういい奴だったね。」
後が続かず、小声でそう言うと「まあな・・・。」と、そっけなく加賀が答えた。
体制を崩さない加賀に、筒井は小さくため息をついた。
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