日記 21 - 25


(21)
 緒方の顔を見て、ヒカルの心はいくらか安らいだ。いつものように、元気よく挨拶をして、
緒方の家を後にした。
 自宅に着くと、母親が和谷から電話があったことを告げた。それを聞いて、ヒカルの気持ちは
また沈み始めた。
 自室に入って、鞄を置くと、机の方に視線を向けた。そして、机の引き出しの奥深くに、
隠してある日記を取り出した。手に取って暫く見つめた。青紫の奇麗な花。その花に、
大好きな人の顔が重なった。ページを繰って、また、すぐ閉じた。
「今日は、書く気にならねえよ。これじゃ、緒方先生に笑われてもしかたねえや。」
 階下で電話の鳴る音がした。ヒカルは、ギクリと身体がこわばった。母の呼ぶ声が聞こえる。
「ヒカル―――塔矢君から電話よ―――」
 ヒカルは、慌てて階段を駆け下りた。引ったくるようにして受話器を受け取る。
「進藤?」
電話の向こうから聞こえる声に、不覚にも涙が出てきた。
「会いたい…」
勝手に口から、言葉が零れた。
 アキラの宥める声が聞こえたが、ヒカルの頭の中は会いたい気持ちでいっぱいだった。
「会いたいよぉ…」
それしか、言えなかった。


(22)
 アキラが「すぐに来い」と言ってくれたので、ヒカルは急いで家を出た。
「帰ったばかりで、また、出かけるの?」
母が、不満半分、あきれ半分の口調で言った。ヒカルは母に「今夜は泊まる」と告げて、
出て行った。
 今日は、アキラに会わない方がいいと思っていたのに、会いたくて会いたくてしょうがない。
いつ電車に乗ったのかも憶えていない。頭の中はアキラのことでいっぱいだった。
 早足で道を急いでいると、前からアキラが走ってきた。
「進藤…!」
ヒカルを心配して、迎えに来てくれたようだ。何日会っていなかったっけ?
ほんの二、三日だったと思うけど、すごく会っていないような気がする…。
アキラの顔を見た瞬間、ヒカルは泣いてしまった。
 アキラが泣いているヒカルの肩を抱くようにして、自分のアパートまで連れて帰った。
通りすがりの人たちが、好奇の視線を投げてよこしたが、それを気にする余裕はヒカルには、
なかった。


(23)
 玄関に鍵をかけると、アキラはいきなりヒカルにキスをした。ヒカルは、僅かに身じろいだが、
抵抗はしなかった。泣いているヒカルを慰めたい気持ちもあったが、もう何日も触れていないヒカルの
肌に触れたかった。ヒカルがこんなに悲しんでいるのに、そのヒカルに劣情を抱くなんて、
自分はとてもひどい奴だと思った。だが、アキラは自分を止めることが出来なかった。
 唇から、顎を伝い、喉元に唇を這わせた。
「ああ…塔矢…」
アキラにしがみつくヒカルの手に力がこもる。アキラの身体に火がついた。このまま、
ここでヒカルを抱いてしまいたい。
「あ…待って…ダメだよ…」
ヒカルがアキラを押しとどめた。性急なアキラの要求に、ヒカルは戸惑っていた。
「オレ…今日、何の準備もしてきてない…」
「かまわない。」
アキラはヒカルを愛撫する手を休めなかった。
「それに、出かけてたから…汗かいてるし…」
「気にしない。」
 それでも、ヒカルは、アキラに「でも」と「だって」を繰り返す。アキラは焦れて、
ヒカルの腕を掴んで浴室の方へ向かった。
「一緒に浴びよう。それなら、いいだろう?」


(24)
 アキラは、脱衣所で着ているを脱ぎ散らかし、のろのろと手を動かすヒカルの服を手早く
脱がせた。そして、ヒカルを抱きかかえるようにして、浴室へ入った。
 シャワーのコックを捻ると、冷たい水が降り注いできた。
「ひゃあ!冷たい!」
ヒカルがびっくりして悲鳴を上げた。
「ごめん。すぐ、熱くなるから。」
水から守るようにして、アキラはヒカルを抱きしめた。
「ううん…気持ちいい…」
ヒカルは顔を上向け、水をその顔に滴らせた。
 アキラの言うとおり、冷たい水はすぐに熱い湯に変わった。ヒカルが、ちょっと
がっかりしたような顔をする。その顔がすごく可愛くて、アキラはヒカルの頬にに口づけた。
さっきまで、泣いていたのに、もうシャワーの水しぶきにはしゃいでいる、そんなヒカルを
アキラはとても愛しく思った。


(25)
 アキラが、ボディソープを掌できめ細かく泡立てて、ヒカルの身体に擦り付けた。
そのまま、スポンジを使わずに、手で直接ヒカルの身体を洗っていく。
「ちょ…ちょっと待って…自分で洗うよ…」
ヒカルは狼狽えて、アキラから離れようとしたが、アキラの手はそれを拒むように
ヒカルの身体を無遠慮に這い回る。ヒカルは身体を壁に押しつけられ、立ったまま、
アキラに好きなようにされた。
「や…やだ…とお…や…」
アキラの手は、優しく、ゆっくりとヒカルの全身を撫でさすった。胸を撫で、乳首の上を
かすめるように洗われて、ヒカルが小さく喘いだ。
 「あ…あん…やだ…やめて…」
自分の声が、浴室の中で大きく響いて、ヒカルは顔を赤らめた。声を出すまいと、唇を
きつく噛んだ。
 アキラはそんなヒカルを見て、小さく笑った。ヒカルに声を上げさせようと、胸を
執拗に責める。胸の突起を軽く摘んで、捏ねたり、引っ張ったりして嬲った。それでも、
ヒカルは我慢した。
 そのアキラの手が段々下がってゆき、ヒカル自身を優しく愛撫した。ヒカルは、身体を捻って
アキラを避けようとしたが許されなかった。アキラはヒカルを弄ぶ傍らで、後ろにも指を
這わせ始めた。
 アキラの指が繊細な動きで、尻の割れ目に沿ってなぞり、後ろの入り口の周辺を押すように、
撫でた。ヒカルは耐えきれずに、声を上げてしまった。
「ひゃ……!やぁ…やめて…とうや…」
 そのヒカルの懇願を受け入れたのか、アキラはヒカルから離れた。ヒカルは、安堵と、
不満がない交ぜになった瞳で、アキラを見つめた。確かに、アキラの性急な求めに戸惑ったのは
事実だが、本気で「イヤだ」と言ったわけではない。それに、もう、身体が熱くなっていて、
このまま放っておかれる方が辛い。
 途方に暮れているヒカルを見て、アキラは、口元にちょっと意地悪っぽい笑みを浮かべた。



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