交際 21 - 25


(21)
 アキラがフーッと深い溜息を吐いた。ヒカルの傍らに屈んで、何とかヒカルを宥めようとする。
「進藤…」
ヒカルは返事をしない。完全にむくれている。仲間外れにされたとでも思っているのだろうか?
 社は黙って自分の布団を抱えようとした。途端に、ヒカルが跳ね起きて、社を睨み付ける。
睨まれても全然怖くない。むしろ可愛いと思ってしまう。この場合は、そう思ってしまう方が
まずいのだろうが…。
「わかった…ここで寝るわ…」
仕方なく言った一言に、ヒカルが傷ついたような顔をした。それと対照的に、アキラは噴火寸前だ。
「別にオマエがイヤやから隣の部屋行こ思たんちゃうで…オレ、寝相がメチャクチャ
悪いねん。」
コレは、ウソだ。
「なぁんだ…オレも寝相はよくねえよ。」
ヒカルが安心したようにほんわりとした笑顔をみせた。
―――――――可愛い…………。本当に隣に寝て大丈夫だろうか?社は自分がドンドン
追い込まれているような気がした。


(22)
 「……社…ちょっと…」
低い声でアキラに呼ばれた。顔から表情が消えている。部屋から出ていく彼に黙ってついて行った。
「や…!」
アキラが口を開く前に、手で彼を制した。
「わかっとる。進藤に手ェは出さへん。無理強いするのは好かんし、アイツに泣かれるんはイヤや。」
そう言いながら、ヒカルが受け入れてくれた場合は、また話は別だと心の中で呟いた。
「……進藤を泣かしたら、ただじゃおかないぞ…」
背筋が凍るような一瞥をくれて、アキラは自室へと引き上げた。社も肩をすくめて、
自分が泊まる部屋と戻った。

 「塔矢、何だって?」
社が障子を開けると、ヒカルが布団の中から声をかけてきた。
「ん〜ちょっと…しょーもないことや。」
ヒカルは、その答えに納得していないのか「ふーん」と少し不満げに呟いたが、それ以上
何も言わなかった。
 部屋の灯りを消して、布団に横になった。ヒカルが社の方に向き直って、たわいのない
おしゃべりを始めた。薄暗がりの中でも、ヒカルの唇が動くのがハッキリと見える。
柔らかくて、甘い唇……。その動きを追っているうちに、ヒカルへの相づちもなおざりに
なってしまう。
 無言になってしまった社に、
「寝ちゃったのか?」
と、ヒカルが顔を覗き込んできた。
「お…起きとおよ…」
間近に迫ったヒカルの鼻先から、慌てて身体を引いた。
「ゴメン…疲れてるんだな。もう、寝ようぜ。」
ヒカルは、社の布団をかけ直してくれた。そうして、自分も寝直すと、何かを思いだしたように
「あっ」と小さく呟いた。 
「社…昨日みたいにふざけたことやったら、絶交だからな!」
社にきつく釘を刺して、ヒカルは目を閉じた。


(23)
 絶交か…可愛いことを言う。ヒカルはもう眠ってしまったのか、柔らかい寝息が
隣から聞こえてくる。
 スウスウと小さな寝息が耳を、甘い香りが鼻腔をくすぐる。すぐ手の届く場所に
ヒカルが眠っているかと思うと堪らない。
『アカン!アカン!何のために一発抜いてきたんや!』
社は自分を叱責した。風呂上がりのヒカルは息が止まるかと思うほど、色っぽかった…。
あんなヒカルを見て、平静でいられるわけがない。そのヒカルが、息遣いや温もりを感じられるほど
間近にいるというのに…。
「…あかん……寝られへんわ…」
なるべくヒカルから遠ざかろうと、布団の端っこまで移動する。身体を丸めて、耳を塞いだ。
時間が経つのが妙に遅い。拷問のようだ。社は、朝まで一睡も出来なかった。

 二日間徹夜してしまった。寝不足の頭でふらふらと食卓についた。目の前に座って
いるアキラも同様の御面相だ。
「……?」
一人元気なヒカルが不思議そうに二人を見比べていた。


(24)
 その夜、前日と同じように二つ並んで延べられた布団を見て、アキラと社はげんなりとした顔をした。
それを見て、ヒカルはムッとした。昨日から二人は煮え切らない態度を見せている。ヒカルに
何か含むところがあるらしいのだが、それをハッキリと告げようとしない。それが気に入らない。
 もう一つ気に入らないのは、二人がヒカルをのけ者にしていると言うことだ。アキラと
社は何か目で会話をしている。ヒカル一人を仲間外れにして、自分たちだけわかった風な
その態度に腹が立つ。
『なんでェ…こいつら…オレばっかのけもんにして…』
 だいたいアキラがイヤだと言うから、自分は大人しくここで寝てるのに…。せっかく
合宿しているのに一人で寝たって面白くない。

 結局、ヒカルに何も告げずに、大きな溜息を吐いてアキラが自室に戻り、社は
観念したような顔で布団に横になった。ヒカルは社に背中を向けて、頭から布団を
かぶった。眠ろうと努力したが、頭に血が昇っているせいかなかなか寝付けない。
 暫くして、社が話しかけてきた。
「なあ…進藤…」
無視をしようかと思ったが、考え直した。ちょっと、子供っぽいと思ったのだ。
「…何だよ…」
声が不機嫌になるのまでは止められなかった。
「オマエ…塔矢とやっとるんやろ?」
はあ?なにを…?と、聞き返そうとして、ハタと気がついた。ヒカルはビックリして、
跳ね起きた。
「な、な、なにを…オ、オマエには関係ねえだろ…!」
狼狽えて声がひっくり返る。顔がカーッと熱くなった。
 社もゆっくりと起きあがって、ヒカルを見つめた。
「関係なくない…オレ…オマエのこと好きやねん…」
あまりに真剣な声に、ヒカルは何も言えなくなった。


(25)
 戸惑うヒカルに社は更に言い募った。
「オレと試してみいひんか?もしかしたら、オレの方が相性エエかもしれへんで?」
「…試す?…相性って…?」
意味がわからない。星占いの話だろうか?
「……Hに決まっとるやんか。」
ポカンとしているヒカルに、社は笑って言う。…え?なんて言った?すぐには理解できなかった。
「…………………〜〜〜〜〜バカヤロ――――――――――!」
ヒカルは真っ赤になって怒鳴った。なんてことを突然言い出すんだ!社はひるむ様子もなく
続ける。
「そやけど…オマエ…塔矢しか知らんのやろ?」
「…べつにいいじゃんか!他のヤツとなんかしねえよ!絶対しねえ!!」
激しく首を振り、プイッと横を向いた。
「そおか?ま…エエわ…進藤はそーゆーおぼこいとこが可愛いねんもんな…」
笑い混じりの気になる一言。
「え…なに…?おぼ…?どーゆー意味?」
「オマエみたいに、初で世間なれしてないことや。」
カチンときた。
「それって、オレがガキっぽいってこと?」
自然と声が尖ってくる。社は気付かないのか
「ちょっと、ニュアンス違うけど…そんな感じやな…」
と、笑いながら言う。
 ムカムカする。どうして、アキラにしろ社にしろヒカルを子供扱いするのだろうか。
自分たちばかり大人ぶって、ヒカルは何もわかっていないって顔をする。
「いいぜ…やっても…」
勝手に口から飛び出ていた。しまったと思ったがもう遅い。



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