とびら 第二章 21 - 25
(21)
「それにきみがそんなことをなぜ言える。進藤の恋人でもないのに」
アキラの声には、言葉には、和谷の神経を逆撫でするものが含まれている。
「俺はあいつの仲間だ。だいたい、おまえあいつを気持ちよくさせられたのかよ。
どうせ男を抱くのは初めてだったんだろ」
挑発するように言う。アキラはきつい目をしたままだ。
「俺はちゃんとあいつを夢中にさせることができるぜ。おまえと違ってな。
負担だってかからないようにしている」
最初のときのことがちらりと浮かんだが無視した。
「確かに僕は右も左もわからなかった。でも彼は僕を導いてくれた」
「おまえがあまりにも下手だったからじゃねえの」
アキラはかっと赤くなった。どうやら当たらずといえども遠からずのようだ。
「……本当にきみは進藤が気持ち良いかわかっているのか。きみの自己満足かもしれない」
「少なくとも手を縛り付けるのが気持ちいいわけじゃないことは知ってるさ」
和谷には何度もヒカルを抱いているという優越があった。対してアキラは何とか一回だ。
悔しそうなアキラを見て、和谷はもっと自分とヒカルの仲を見せつけてやりたいと思った。
和谷は掃除用具入れから青いホースを取り出すと、問答無用でアキラを縛り上げた。
「何をするんだ!」
いきなりだったので、抵抗することのできなかったアキラはもがいた。
だがかまわずに和谷はアキラを洋式トイレに追い込んだ。
「何をする気だ! ほどけ!」
「うるさい」
バケツの中にあった雑巾を口に突っ込んでやろうかと思ったが、さすがにそれは
やりすぎなのでハンカチにした。
「隙間からのぞいてろ。言っとくけど、誰も来ないぜ。このトイレは今、清掃中だからな」
和谷は勢いよくドアを閉め、開かないようモップでつっかえさせた。
中から蹴る音がしたが和谷は気にせずトイレを出た。
(22)
玄関に行くと、ちょうどヒカルが入ってくるところだった。
「和谷! 研究会、始まってんじゃないのか?」
「それよりどうだったんだ?」
「進路相談? たいしたことなかった」
「だろうな。オレもそうだった。成績悪かったしな」
笑いながら歩き出すとヒカルは後をついてくる。
「あれ? 階段使うのか?」
不思議そうにしながらもヒカルは逆らわない。
ヒカルはよく歩くらしく、こんな階段など苦にならないようだ。
靴も頻繁にかわる。履きつぶしている証拠だ。
「おい、どこに行くんだよ。トイレ? オレ先に行くぞ。あ、清掃中だぞ」
「いいから」
ヒカルを強引に連れて入る。誰もいないトイレにヒカルは目をぱちくりさせる。
そんなヒカルを抱きしめる。耳元に口を寄せて、そっと言う。
「キスしたいんだ」
「え? おい、和谷……」
「こないだ、おまえを抱けなかっただろ?」
すっとヒカルの顔色が白くなった。和谷はその顔を挟み、温めるようにさすった。
「だから、キスしたい」
「…………ん……」
聞こえるか聞こえないかの承諾の声。和谷の手にヒカルが自分の手を重ねてきた。
まぶたに、頬に、口づける。そして柔らかくて弾力のあるヒカルの唇にたどりついた。
いつキスしても和谷は感動を覚える。そして今日はなおさらそれを感じた。
ヒカルを好きだと気付いたからだ。自分の想う相手とのキスはどこか甘い。
和谷はじりじりとドアが閉まっているところまで移動した。
「……そこ、閉まってる……誰か……入って……」
息を弾ませてヒカルが言う。和谷は見て、笑った。
「壊れてるんだよ。モップがかけられてるだろ?」
そう言うとヒカルを黙らせるようにまた深くキスをした。
(23)
和谷はヒカルが制服を着ているのが好きだった。
脱がせやすいし、何よりも興奮してしまう。
もう自分は制服を着ることはできない、そんな愁傷みたいなものも感じた。
「和谷……キスだけだって……」
ボタンを外す和谷の手をヒカルは止めようとする。だがその力は弱々しいものだった。
「そう、ここにもキスしたいんだ」
シャツをはだけさせ、キスだけですでに硬くなっている乳首に軽く触れた。
「んっ……っあ……」
息を吹きかけるとヒカルはふるえた。触れるか触れないかの距離で優しく上下に撫でる。
「和谷っ……」
とがめるようにヒカルが声を出す。人差し指で脇腹をはじくとヒカルは喘いだ。
ごとり、と音がした。
「今……何か……」
「気のせいだろ」
とがった乳首を丸めた舌先で味わう。ヒカルは和谷にしがみついてくる。
「キス、してくれよ……」
潤んだ目で見下ろすヒカルに和谷は見惚れた。こうしてヒカルがねだってくるのが嬉しい。
今までヒカルを好きだと気付かなかった自分は鈍いかもしれないと思いながら、
ヒカルの望むままにキスをする。
「塔矢が見たらまた怒るな」
和谷はくすくすと笑うがヒカルは答えない。
「ま、あいつも不潔菌をうつされたから、文句は言えないか」
そうつぶやきながらまたキスをする。
和谷はヒカルの下半身をたしかめた。やはり勃ちあがっている。
手早くズボンを膝のあたりまで下げた。
「和谷っ」
「このままで研究会に行くつもりか?」
「………………」
ヒカルは壁に背をもたれさせた。もう抵抗しない
(24)
和谷は奥の袋を揉みながら、ゆっくりとペニスを舐め上げた。
緩急をつけてしごくと、ヒカルの膝が大きく痙攣した。
ヒカルは足を広げようとしているが、膝のズボンが邪魔でできない。
苦しそうに和谷を見つめてくる。
「気持ち良いか?」
「……ん、いい……」
素直にヒカルはうなずく。汗がその額を流れていく。
「んっあ、ふぅ……く、ん……ぁ……」
ヒカルの喘ぐ声が、和谷の舌がたてる音が、反響する。
和谷はいつもよりも焦らした。
アキラがどんな思いで聞いているかを考えると愉快だった。
「あ……オレ、もう……イキたい……っ」
張りつめて、先端からは涙のような雫が垂れている。
たしかにそこは熱の放出を待っているように見えた。
和谷はヒカルのそれを口内に含みいれた。瞬発的にヒカルの身体は悶えうった。
双丘のはざまに指をすべらせ、奥のふちを撫でながら侵入した。
そしてそのままヒカルの中をこすりあげた。
「はっぁ……ふっあぁぁぁ……」
あごが仰け反りあがるのと同時に、ヒカルの快楽がほとばしった。
和谷はそれをすべて飲み干した。ヒカルはずるずると座り込んでしまった。
目はぼんやりしている。だが手を和谷の股間へと持ってきた。
お返しとばかりに和谷のモノを取り出し、舐めはじめる。
すぐに和谷のペニスはヒカルの手の中で大きくなっていく。
よだれを垂らしながら自分に奉仕してくるヒカルは、不思議と淫猥さを感じさせない。
自身を舐められるより、ヒカルの表情に和谷は欲情した。
達する、と思った瞬間、和谷はヒカルの口からペニスを引き抜いた。
床に放った和谷をヒカルは焦点の定まらない目で見ていた。
だがやがてそこに光が戻ってきた。
「……なんで、外でイクんだよ」
(25)
和谷はトイレットペーパーでヒカルの汚れをぬぐいながら言った。
「おまえまずいっていつも言うじゃないか」
「まずいけど平気だよっ」
「今は口直しの飴をもっていない。ずっと口の中が苦いままだぞ。やだろ」
衣服を正し、ヒカルを立ち上がらせる。まだ不服そうな顔をしている。
「今度してくれればいいさ。それより先に行っててくれるか?」
「和谷は?」
散らばった白い液体を目で示す。
「ちょっと後始末。二人とも遅れるわけにはいかないだろ。なんかフォローしといてくれ」
ヒカルは迷ったようだがわかった、と言った。
「和谷はハライタで、トイレに閉じこもってるって言うよ」
先ほどとはうって変わって明るい。この差が魅力的だった。
普段からあんなに艶めいていたらかえって病的に感じる。
ヒカルが出て行ったのを確かめると、和谷はモップを外し、ドアを開いた。
中には顔を怒りで真っ赤にしたアキラがいた。
唾液で濡れたハンカチを取るとアキラは歯を食いしばった。罵声も浴びせられないようだ。
「若センセイのここ、元気だなあ」
からかうように和谷はアキラの股間に触った。そこはすっかり形を持っていた。
蹴ってくる足をかわし、和谷はズボンの中へと手を滑り込ませた。
「な、にを……」
「イカしてやるよ」
強引にペニスを外に引き出すと、和谷はそれをくわえてなぶった。
目に涙をためてアキラは顔を横にそむけたが、のどからかすかに喘ぎ声が漏れてくる。
軽く吸い上げるとアキラは身体をしならせて達した。
和谷は口の中のモノを取り出し、それからアキラの放ったものを右手に吐き出した。
そしてアキラの横面を叩いた。びしゃり、という音とともにアキラは液まみれとなった。
「誰がおまえのなんかを飲むかよ」
呆然とアキラは和谷を見る。だが和谷は何も言わずにホースの結び目をゆるめた。
「自力で外しな。いつまでもこんなところに転がってると誰かに見られるぜ」
出て行きながら、自分はひどいやつかもしれないと思った。
だが優しくしたいのはヒカルだけなのだからしかたがない。
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