とびら 第六章 21 - 25


(21)
「きみの制服姿、久しぶりに見る」
制服のぼたんを外しながら、アキラは感慨深そうに言った。
「これが最後だぜ。今日が卒業式だったんだ」
そう言うと、アキラは手をとめてヒカルを見つめてきた。
「おめでとう」
その言葉にヒカルは不覚にも涙が出そうになった。
今日はたくさんこの言葉を聞いた。だが誰もヒカルだけには言ってくれなかった。
だからアキラが言ってくれて、とてもうれしかった。
「サンキュ。で、おまえはいつ?」
「ボクも今日だった」
「行かなかったのか? 卒業式くらい行けば良かったのに」
同情の色をにじませたヒカルの言葉に、アキラは笑って首を振った。
「いいんだ。卒業式なんて行っても、寂しくなるだけだ」
ヒカルはアキラの言っていることが痛いほどわかった。今日の自分がそうだったからだ。
「それに対局のほうが大事だ。何よりも、きみが来てくれると思った」
ポケットからアキラはハンカチをとりだした。
それを振ると、ばらばらとコンドームが出てきた。一枚一枚、きちんと切り取られている。
和谷のことを思い出した。あの時は笑ってしまったが、何だか今はそんな気になれない。
アキラが真面目だからだろうか。
「中学生が、それも塔矢アキラが、こんなの持ち歩いてるって知ったら、みんなすごく驚く
だろうな。きっと大騒ぎになるんじゃねえ?」
「もうボクたちは中学生じゃない。それにこういうことに、そんなことは関係ない」
「……そうだな」
ヒカルはアキラのネクタイへと手を伸ばし、それをほどいた。
首から抜ける時のしゅるしゅるという音がおもしろい。
アキラもヒカルのベルトを外し、ずぼんを脱がせた。
「あ、上も脱ぐよ」
ヒカルが上着に手をかけるのをアキラはおしとどめ、言った。
「上は着たままでいい」


(22)
ヒカルは背を抱えられながら畳に横たわった。下着を取りさらわれる。
服の上から胸をさすられると、その気になった乳首が形を表しはじめる。
「進藤」
ささやくように名を呼ばれアキラのほうに顔を動かすと、すぐにキスをされた。
目を閉じて、ヒカルは一心にアキラの舌を追った。
アキラはゆっくりとヒカルの右腕を撫で、そして頭上にと押しやった。
左腕も同じようにされ、ばんざいをするような格好となった。
「塔矢……?」
ヒカルは逆らわず、ただアキラの様子をうかがった。何をするつもりなのだろう。
アキラはそばに放られていたネクタイを取った。
その動きはゆるやかだったので、ヒカルはまったく警戒しなかった。
気付いたときにはすでに両手首を縛られていた。一気に血の気が引いていく。
「何でこんなことすんだよ! オレ嫌がってねえだろっ」
アキラはくすりと笑った。意図が読めず、ヒカルは不安に駆られた。
「思い出さないか? ボクがきみを犯したときのことを」
「……学校でのことを言ってるのか?」
激情に流されたアキラにヒカルは手首を縛られ、ほとんど無理やり抱かれた。
痛くてたまらなかった。だがそれでも、ヒカルは快感を覚えていた。
アキラの手が股間のあたりを這いまわりはじめた。
「とっ、やぁ……」
「ボクは何度もあの時のことを後悔した。時間を戻してやりなおすことができたらどんなに
いいだろうと思った。あの時だけじゃない。ボクはきみにした多くのことをいつも後悔して
いる。でもそう思っても時は決して逆さになりはしない。それに何よりも、ボクは思うんだ」
アキラは行為を続けながら話すので、ヒカルは流されそうになる意識を懸命にとどめなくて
はならなかった。だがそれも限界というものがある。
「ふん、くっ……とぉ……っ!!」
「たとえ時が戻ったとしても、ボクは同じことをしてしまう、って……」
悲しそうな声が降ってきた。しかしそれが耳に入る前にヒカルは射精した。


(23)
虚脱感が身体を襲う。しかし最奥の疼きは激しくなるばかりだった。
ヒカルはぼんやりと間近にあるアキラの顔を見た。
「……オレを好きになったことは、後悔してないよな……?」
「それだけは何があっても、ありえない」
断言の言葉にヒカルはほほえみを返した。縛られた両手でアキラの首を抱く。
ヒカルは膝をたて、足を大きく開いた。
「今すぐ欲しい」
「たしかに手を縛ったけど、ボクは痛い思いをさせたことまで再現したいわけじゃない」
アキラは心外だと言うように口を尖らせた。
「大丈夫だ。多少はほぐれてるから」
途端にアキラの表情がこわばった。ヒカルは急いで首を横に振った。
「違う。和谷としたわけじゃないからな。その、オレ……」
「どうしたんだ?」
詰問するような口調だった。だがヒカルは言葉にするのが恥ずかしかった。
しかし言わなければアキラは疑ったままだろう。
目線を横にそらし、ごく小さな声でヒカルは言った。
「……自分で、したんだ」
「え?」
聞き返され、ヒカルは今度はやけくそになって叫んだ。
「自分でしたんだよ!」
アキラがきょとんとして、まじまじと自分をのぞきこんでくる。
顔から火が出るとはこのことだとヒカルは思った。悟ったようにアキラがうなずいた。
「前だけじゃ、イケなかったんだ? 何をいれたの、ここに」
アキラの指先がヒカルの後孔の入り口を撫でまわす。
その刺激がむずがゆさを生み、ヒカルはもぞもぞと腰を動かした。
「それはボクのより良かった?」
ヒカルは答えるのをためらった。しかしアキラがペニスの先端を自分のなかにめり込ませた
とき、無意識に口走っていた。
「おまえのほうが全然いい」


(24)
ぐっぐっ、とアキラは腰を進めてくる。
その質量感と熱に翻弄され、ヒカルは口から絶え間なく声を漏らした。
身体を裂くような痛みさえも快感に変わる。
アキラがヒカルの左膝の下に手を入れ、胸に付くくらいまで押し上げてきた。関節がぽきり
と鳴り、驚いてアキラの首にまわした手を狭めた。
「しんどっ……苦しいから、ゆるめて……」
「おまえこそ、そんな動くなっ……あ、ぅふっ」
意志のあるものに内部を掻きまわされると、身体を奪われるような錯覚に陥る。
ヒカルはアキラの背広の襟の後ろをつかんだ。
汗の臭いがした。自分のものとも和谷のものとも違う。
それを嗅ぎながら、アキラはたしかに生きているのだなとヒカルは思った。
佐為からは何のにおいもしなかった。体温も感じられなかった。何かを食べることもなく、
よって排泄行為もなかった。自分とはまるきり、かけ離れた存在だった。
触れられる位置にいても、触れられない――――
「進藤、目を開けろ」
怒気を含んだ声で呼ばれ、ヒカルは思考を戻した。
「今きみを抱いているのはボクだ。ボクだけを見ろ」
「あぁっ、はっ、かぁっ……」
いきなり強く突き上げられ、ヒカルはのどを詰まらせて咳き込んだ。しかしアキラは憤った
表情のままヒカルを見てくるだけだった。
そんな顔など見ていたくなかった。ヒカルはアキラの服に取りすがり、顔を押し付けた。
一段とアキラの動きが激しくなった。二人で一気に駆け上がっていく。
「あっ……くぅっ!」
ヒカルの精液がアキラの背広に飛び散った。ほとんど間をおかずしてアキラも達した。
情事の余韻が残るヒカルの身体から、アキラは無造作にペニスを引き抜くと背を見せた。
「……どうしたんだ? こっちむけよ」
「ボクを見ないきみを、ボクは見ていたくない」
ヒカルは最中の自分を振り返って、アキラが言っている“見ていない”という言葉の意味が
ようやく少しわかったような気がした。


(25)
「あのさ、塔矢……」
謝ろうとしたが、また怒らせそうな気がしたのでやめた。
ヒカルがその背を見つめていると、アキラが恐ろしく沈んだ声を出した。
「優しく抱けたらと思うのに、いつもうまくいかない。次こそはと思っても、きみをまえに
すると理性が簡単に吹き飛ばされてしまう……」
こきざみにアキラの肩が震えだした。泣いているのか。
ヒカルが自責の念に苛まれたそのとき、アキラは勢いよく振り返った。
その顔には涙などなかった。それどころか勇ましい表情をしている。
「きみに言いたいことは山ほどある。でも今は一つだけでいい」
「な、何だよ」
ヒカルは生つばを飲み込んで、アキラの言葉を待った。
「ボクが……不本意だけど和谷も、きみのそばにいることを忘れないでほしい」
もっときついことを言われると思ったヒカルは拍子抜けした。
しかしこの言葉はかえってヒカルの心の奥深くに染みとおっていった。
(塔矢はオレに甘いよ……そんで、オレもそんな塔矢に甘えてる……)
大きなためいきは自分に対してだった。
「おまえ、オレなんかと違って、優しいな」
アキラが動揺したように身体をたじろがせた。
「ボクは優しくなんかない。自分のことしか考えていないよ。その証拠に……」
そこでアキラは言葉を飲み込んでしまった。
「もう行こうか。鍵を返さなくちゃいけない」
あと一回したいと思ったが、ヒカルはそんな自分を押しとどめた。
ふとアキラが思い出したように言った。
「来週の土日に関西でイベントがあるよね」
「ああ、神戸だって。なんか北斗杯の宣伝とかも兼ねてるらしいな」
「それにボクも参加するよう頼まれた」
「え? じゃあおまえも行くのか?」
アキラはうなずくと、ヒカルを抱き寄せてきた。
どことなくその様子がおかしい気がしたが、深くは尋ねずにヒカルは身を任せていた。



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