社妄想(仮) 21 - 25
(21)
「進藤……!? どうしてこんな……っ」
アキラはその光景に、言葉を詰まらせた。
ヒカルは自分の身に何が起こったのかを把握するのが精一杯で、自分が考えていたよりも
酷い惨状になっている事には気付かなかった。
地面には夥しい凌辱の痕が残っていた。
点々と付いている赤い染みも、ヒカルの血だ。
いくつかの碁石をヒカルの中に飲み込ませた後、社はそのまま己の楔をもヒカルに打ち付けた。
余りの痛みに暴れるヒカルを無理矢理押さえつけ、その猛々しい肉塊で何度も貫き、
内部に灼熱の迸りを注ぎ込んだ。
そして抵抗らしい抵抗を見せなくなったヒカルの秘門に、持っていた碁石を全て埋め込んだのだった。
アキラがカッターナイフで腕を結んでいた布を切ると、手首にはくっきりと紅い痣が残った。
アキラの中は激しい怒りで満ち満ちていたが、今は兎に角ヒカルの身が優先だった。
「進藤、立てるか?」
「……」
返事はない。
アキラがヒカルを覗き込むと、ヒカルの目には今にも溢れそうな程の涙が浮かんでいた。
(22)
「進藤……」
「とぉ、や……おねがいが、あるんだ……」
今にも消え入りそうな声で、か細く震えながら。
そんな様子が余りにも哀れで、アキラはヒカルを優しく抱きしめながら問う。
「何?」
ヒカルは暫くアキラの肩に顔を埋めていたが、やがてゆっくりとアキラの胸に手を付いて距離を取ると、おもむろに下肢に手を伸ばした。
「ん……くっ……」
そしてアキラが何か言おうとするのも許さず、自らの内部に指を忍ばせると、何かを掻き出すようにして手に握り、アキラの眼前に突き出した。
「これ……とって、……欲しいんだ……」
息も切れ切れに訴えるヒカルが、いつもと様子が違う事など、すぐに分かった。
目の潤みも、桜色に染まった身体も、全身に走っている微弱な震えも。
アキラの中の余計な知識の中に、思い当たるものがあった。
「薬を飲まされたのか……」
何も言わずただヒカルは頷く。
アキラがヒカルを抱き寄せ、髪をそっと撫でると、ヒカルはアキラにぎゅうっとしがみついた。
「ごめん、ごめんな、塔矢……。オレ……」
「謝る事なんてない。傷付いたのは君だ」
涙の伝う頬をそっと撫でる。
正面からヒカルを見据えると、ヒカルは頬に触れるアキラの手に自らの手を重ね、頬擦りした。
(23)
アキラは自分の上着を脱ぐとそれをコンクリートの上に敷き、その上にヒカルを寝かせた。
「あ、あの……ホントごめんな…………」
「謝らなくていいから……」
不安げに、そして心底申し訳無さそうに呟くヒカルを安心させるように、
アキラは髪を梳きながら応える。
下肢は既に散々馴らされた後のようで、アキラの指をあっさりと飲み込んだ。
苦痛に喘ぐヒカルの身体を宥めながら、一つ、二つと石を取り出す。
指が抽挿を繰り返す度に、ヒカルの身体は硬直し、石を取るのは結構な難作業だった。
ヒカルがアキラと初めて寝たのは、ほんの少し前の事。
漸く異物感にも慣れ、痛みよりも快楽を感じる事が出来るようになっていた
その矢先に、こんな目にあって。
肉体面よりも精神面でのショックが大きいはずだ。
アキラは怯えるように震えるヒカルを優しく宥めながら、暫くはなるべく、
ヒカルの傍を離れないようにしようと思った。
「っつ……いた、…痛いっ」
あと最後の一個という所で突然ヒカルが痛みを訴えだした。
「進藤?」
「なんか、痛い……擦らないで……取って…」
擦らないでと言われても締め付けているのは他ならぬヒカル自身なのだ。
意識すると、どんどん力は抜けなくなる。
指で摘んで取り出せるのならばいうことはないが、如何せん中はヒカルを犯した者の精液によって
ひどく滑(ぬめ)っている。
取り出した全ての石は殆ど掻き出したといっていい。
アキラは、忍ばせた指はそのままに石を取り出す事を諦めると、
もう一方の腕でヒカルを膝に抱え上げた。
「とぉ、や……?」
ヒカルが不思議そうにアキラを見つめ、瞬きする。
涙に濡れた睫が光を受けて眩く輝いている。
ヒカルが再度ゆっくりと瞬きをすると、目許を飾る滴は弾けて散った。
アキラは眦に残った露を吸い、そのまま唇で肌を辿る。
ヒカルの背筋がピンと張るのを感じたが、彼は逃げようとはしなかった。
(24)
産毛に触れるようなささやかな愛撫に震えながらも、アキラの肩に手を置いて自重を任せてくる。
背中を支える手は服の中に滑り込み、ヒカルの粟立つ肌を往き交う。
その間もヒカルの中に潜り込んだ指は、ヒカルの弱い部分を圧したり、軽く引っ掻いていた。
啜り泣くように洩れる声が吐息と共に耳にあたって、知らずアキラの身体も煽られる。
弱い部分をアキラの指が掠めて、ヒカルは短い嬌声を上げた。
身体を仰け反らせ、露になった白い首筋を甘噛すると、ヒカルは堪らずにアキラの肩に爪を立てた。
眦に溜まっていた涙が、感極まって一筋の流線を描く。
小さい呼吸を繰り返して、肩の辺りに顔を埋めるヒカルの耳許で、
アキラは出来得る限りの優しい声で囁いた。
「ヒカル」
滅多に呼ばない下の名前でアキラが呼ぶと、ヒカルはアキラを見つめて一瞬きょとんとした。
そしてやがて喜びが浸透していったのかのように。
ゆっくり花開くように、ふんわりとした幸せそうな笑顔を浮かべた。
そのまま眸を閉じたヒカルの薄く開かれた唇に、アキラは自分の唇を重ね合わせた。
そっと何度か啄んで、唇を舐めあげる。
瞬間驚いたようにさらに少しだけ開いた口腔に舌を滑り込ませて、上の齦の裏を舌先で刺激する。
渇いていた舌先は、ヒカルの中から分泌される甘い蜜を絡め取り、自分の中に戻ると、
同じように自分の分泌する液体をたっぷりと絡め、ヒカルの中にそれを送った。
唾液と唾液が絡まって、頭の芯から溶けるような感覚がした。
ぴったりと密着した身体からはせわしなく鳴る鼓動が伝わってくる。
それともこれは相手のではなく自分の鼓動だろうか。
熱に浮かされた頭でアキラは考えた。
そして、ヒカルの全身がくったりと弛緩する瞬間を狙って、ずっと動きを止めていた指を動かし、
一気に外まで抜いた。
「ん、んぅっ……!」
驚いたヒカルは紅い舌を持て余すように口から小さく覗かせたまま、身体を退いた。
二人の間を引いた銀色の糸が、ぷつんと切れて双方の口元をしどけなく彩る。
取り出したガラスのそれは、一部分が欠けていた。
(25)
アキラはそれに気付くと、血の付いている部分を指で軽く拭い、もう一度石をためつすがめつする。
少なくとも石の状態からして昨日や今日欠けた訳ではない事が解り、ひとまずほっとする。
欠けたその部分は既に磨耗していたので、それほど酷い傷を付けずに済んだだろう。
ふと気付くとヒカルはアキラにしがみついたまま、小さく震えていた。
「進藤?」
「……塔矢」
ヒカルはそのまま熱い吐息と共にアキラの耳許に囁いた。
極々短いセンテンスの言葉を。
だが、その言葉がアキラの頭脳に浸透するには、姑くの時間を要した。
「お願いだ……このままじゃ、対局に…集中出来ない……」
続けてのヒカルの言葉に、漸く先程の言葉は聞き間違いではないのだと納得する。
しかしそれならそれで、別の疑問が浮上してくる。
ヒカルを見ると潤んだ目で見つめ返してきた。
その扇情的な瞳に一瞬たじろぐ。
自分の知っている進藤ヒカルは、こんな目をする少年だったろうか。
ヒカルはのろのろとアキラから離れると、かろうじて身につけているという風情だった服を
脱ぎはじめる。
こんな 、いつ、誰が来るかも知れない場所でヒカルは一糸纏わぬ姿となった。
快晴の空とその姿が相俟って、酷く倒錯的な図に見える。
それでも恥じらいは残っているのか、両腕は身体を隠すように添えられている。
そして、アキラの顔を正面から捕らえる事も出来ずに、頬を染めたまま視線を
地面に彷徨わせていた。
理由はどうあれ、ここまで情熱的な誘いを受けてアキラも断る理由などない。
場所が場所だけに気になる事もあったが、アキラは着衣を緩めるとヒカルの肩を引き寄せた。
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