夜風にのせて 〜密会〜 21 - 25


(21)

二十一
しばらく二人は無言のまま踊っていた。段々気まずくなっていく気がしてヒカルは何か話
しをふろうとする。けれど何も思い浮かばなかった。
抱き合ってお互いの熱を感じ、呼吸を感じているのに、ヒカルはアキラを遠くに感じた。
体はこんなにも近くにあるのに心は全くかよっていない気さえする。ヒカルはそんな虚し
い気持ちに押しつぶされそうになっていた。
だがそんな想いで俯いていたヒカルに、アキラは耳元で囁きかける。
「進藤が女だったらよかったなんて、ボクは今まで考えもしなかった。だってボクは進藤
が好きなんだ。だから性別なんてどうでもよかった」
突然の告白にヒカルは驚いて顔を上げた。そこにはいつものように優しい笑みを浮かべる
アキラがいた。
「でもキミが女だったら、皆の前で堂々とボクのものだって叫ぶことができたのかと思う
と悔しいよ。だってそうすればキミを変な目で見る者も少なくなるかもしれないだろう」
ヒカルは先ほどの桑原を思い出し怖くなった。あの時もしもアキラが助けてくれなかった
らと思うと怖くてたまらない。
ヒカルはアキラに抱きつこうとした。だが躊躇った。アキラが今の自分をどう思っている
か不安だったからだ。
「なぁ塔矢。…こんな格好をしたオレ、気持ち悪くないか?」
アキラがどんな答えをするか怖かったが、ヒカルは不安ながらも尋ねた。
「そんなことない。すごくキレイだよ。それに言っただろう。ボクは進藤が好きなんだっ
て。どんな格好をしていたって関係ないよ」
その言葉に安心してヒカルはアキラに抱きついた。
「進藤」
アキラが耳元で囁く。いつのまにか薄暗いところへ移動していたことに気づいたヒカルは、
アキラの意図を察知して目を閉じた。アキラの舌がヒカルの口腔内に入り込んでくる。
二人はいつも密かに会って、肌を重ねてきた。もちろんキスも慣れている。だが公衆の面
前で堂々とキスをしたことは一度もなかった。どんなに強がっても普通の恋人のような関
係にはなれないとどこかで思っていた二人は、そこから解放された喜びで夢中になった。


(22)

二十二
曲が終わると同時に、二人も長いキスを終えた。
しばらく抱き合いながら余韻に浸る。
「口紅、ずれちゃったね」
アキラに言われ、ヒカルは恥ずかしくなった。よく見るとアキラの唇にも赤い口紅がつい
ている。今までキスの後にこのような経験をしたことなかったヒカルは、自分がアキラに
つけたキスのあとがやけに生々しくて俯いた。
「そのままじゃ嫌だろ。トイレに行こうか」
アキラはそう言うと股間をヒカルに押し付けた。アキラがたっているのを感じたヒカルは、
顔を赤らめて戸惑った。それはつまり口紅をなおすという目的よりもヒカルを抱きたいか
らトイレに行こうと誘っているようなものだった。
しばらくヒカルは考えた。アキラの告白は嬉しかったが、夕方のあの事件があったばかり
なのに、一緒にトイレに行くのは気分が乗らない。また酷いことをされるのではないかと
いう不安がヒカルを襲う。
「オレ、一人で行ってくるよ。すぐ戻るからさ」
ヒカルはそう言うとアキラから離れようとした。アキラについた口紅は何とかごまかせて
も自分の口紅はキスをしたとすぐばれてしまうだろう。抱かれる気分ではなかったヒカル
は、そう言って一人でトイレに行こうとした。
だが行かせはしないとでもいうように、アキラはヒカルの腰を抱きなおす。
「なぁ、すぐ戻るからさ」
ヒカルは何とかアキラに我慢をさせようとした。しかしアキラに我慢など無理だった。
自分の誘いを必死に断るヒカルに次第に腹をたてたアキラは、手をスリットの中に忍ばせ
た。薄暗いそこではアキラが何をしているか周囲にはわからないようだったが、ヒカルは
誰かに見られていないか心配になった。だがそんなヒカルの心配をよそに、股間にたどり
ついたその手は、ヒカルのそれを乱暴にもみしだいた。ヒカルは痛みと快感に顔を歪めた。
「一緒に行くよね?」
アキラは脅すように真顔で囁く。それに恐怖を感じたヒカルはヒールのかかとでアキラの
足を踏んだ。悲鳴をあげると、アキラはその場にしゃがんだ。ヒカルはごめんと思いなが
らも、アキラを置いてその場から立ち去った。


(23)
二十三
カツカツと大きな靴音をたてながら、ヒカルは逃げるようにトイレに飛び込んだ。だが今
は女性の格好をしているというのに、いつものくせで男子トイレに入ってしまう。
息を整えながらヒカルは鏡を見る。せっかくの化粧がずれた口紅で台無しになった気がし
て、ヒカルは自分の顔が酷く滑稽に見えた。
ヒカルは輪郭からはみ出た口紅を指で丁寧にふきとった。だがなかなかきれいに落ちなく
て何度もこすった。
ふと鏡に人影がうつった。ヒカルは顔を上げてその人影を鏡越しに見る。そこにはアキラ
が立っていた。鏡の中で目が合ったヒカルはアキラの睨む目が怖くて個室へ逃げ込んだ。
だが扉を閉める前に、強引にアキラは中へ入ってきた。ヒカルは女子トイレに逃げればよ
かったと今になって気がついた。
鍵を後ろ手に閉めてジリジリと詰め寄るアキラが怖くて、ヒカルは足がすくむ。
アキラはそっと手を伸ばし、ヒカルの胸にかかった髪をどける。そしてストールを肩から
ずり落とすと、あらわになった首筋や鎖骨をなでた。
怖さのあまり、ヒカルは胸の鼓動が早打ちするのを感じる。固唾を呑んでアキラの一挙一
動を見つめた。


(24)
二十四
しばらく肌の感触を楽しんでいたアキラは、おもむろにドレスのストラップを肩からはず
した。痩せていたため、ドレスはするりと落ちてヒカルの胸をあらわにした。
「へぇ、こんなものをつけていたんだ」
アキラは興味津々にそう言うとパッドのつまったブラジャーを掴んだ。ヒカルは恥ずかし
さと恐怖で目を閉じる。
「そんなに怯えないで。進藤が怖がるようなことはしないから」
アキラは優しく囁く。だが口とは裏腹に手はスリットの間から下着の中へ忍び込んでいた。
「塔矢、もう許して…」
ヒカルは下半身を動き回るアキラの腕をつかんで懇願した。
「許す? 進藤、キミは何か勘違いをしていないか? ボクがどれだけキミを愛している
かって言わなくてもわかるくらい、キミの体にこの想いをぶつけているというのに。それ
なのになぜ怯える? どうして拒む? キミはもっとボクを受け入れてもいいはずではな
いか?」
アキラはそう言うとヒカルの口に指を突っ込んだ。舌を弄ぶようにしてヒカルの口腔内を
無理矢理犯す。
「どうしてわかってくれないんだろう。それとももうボクのこと、好きじゃないのかな? 
でもそうだとしてもボクはキミと別れる気はないからね。嫌われてもまたボクを好きにさ
せてみせるよ。絶対キミをはなしたりしないから」
アキラはそう言うと笑みを浮かべた。その笑顔がヒカルをさらに恐怖へ陥れる。
アキラならやりかねない。ヒカルはそう思った。今までだって何度もつけまわされてきた
のだから、アキラがそう簡単に自分を手放すことはないと常々思っていた。だがこの状況
でそう言われると怖くて仕方がない。
ヒカルの唾液で十分湿らせると、アキラはその指をヒカルの尻の穴へ入れた。
「…ん、ヤダ、もうヤダ。怖い…怖いよ」
ヒカルはとうとう泣き出してしまった。だがアキラの手が止まることはなかった。


(25)
二十五
「ほら、泣かないで。今気持ちよくしてあげるから」
アキラはそう言うと、指でそこをならし始めた。
ヒカルは今日一日だけで何度犯されたかわからない。それでも求めてくるアキラが、これ
が自分への尽きない愛の印だと言ってもヒカルは認めることはできなかった。たとえそれ
が本当の愛だとしても、ヒカルの意思を無視したあまりにも一方的すぎるアキラの行為は
許せない。だがヒカルには与えられた道はひとつしかなかった。
「そろそろいいね」
アキラはそう言うと自分のズボンのファスナーをおろした。ヒカルは黙ってアキラに背を
向けると、壁に手をついて尻を突き出した。
アキラはスカートをめくると、ヒカルの下着を下ろしてそこに自らのものをあてがった。
ヒカルは声を出さぬよう自分の指を噛んで耐えた。どんなに逃げても、抵抗しても結果は
同じなんだと自分に言い聞かせながら。それしかヒカルにはここから開放される道が思い
つかなかった。



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