平安幻想異聞録-異聞- 214
(214)
「ここを掘りましょう」
佐為が、アキラをせかした。
「ここに違いありません。ヒカルの亡き父君が、この場所を教えるために
この太刀をここに置かれたのだと思いませんか、アキラ殿!」
アキラが黙って道具を取りだし、その場所に降り積もっている竹の
枯葉をかき分け始めた。
彼にならって、佐為もすぐに鋤を取りだし、今はマメだらけ傷だらけに
なっている手で、剥き出しになった地面を掘り起こす。地中には竹の細くて
丈夫な根が、人の血管のように縦横無尽に巡らされていて、作業はなかなか
進まなかったが、半刻ほどそれらと格闘した後。
鋤の先にコツリと固いものが当たった。
だが、今までも幾度か、そうして石に当たった感触を勘違いして掘り起こし、
がっかりもさせられている。
緊張に早鐘を打つ心の臓を押さえながら、佐為とアキラは更にそこを
掘り進めた。
果たして。
二人の目の前に素焼きの壺が姿を表した。
大きさは人の頭二つ分はあるだろうか。
その蓋には、封印の印が書き込まれていた。
「佐為殿、離れていて下さい」
アキラの言葉に、佐為は二歩ほどそこから後ずさる。
短い呪文のようなものを唱えて印を切った後、アキラはその蓋を開け放った。
顔を背けたくなるような異様な腐臭があたりに広がった。
アキラはそのまま壺を逆さにして、中に入っているものを振り落とす。
ボトボトとその口から落ちてきたのは、干からびたり、腐ったり、食い千切られ
たりした、蛇やヤスデ、カエルの死体、そして腐って半分ドロドロになった
人間の摩羅。数は四本。
佐為もアキラも知るよしもなかったが、それは、あの下弦の月の夜、ヒカルを
陵辱した後、口封じのために殺された夜盗装束の男達のものであった。
そして、最後に、壺の奥から齢二十年は数えようかという大ムカデが
飛びだした。
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