平安幻想異聞録-異聞- 215
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こうなるとムカデというよりは節のある蛇というほうが近い。
それは、朝日の明るさに苦悶するように身をよじると、無数の足を
うごめかせて走り、薮の中へと逃げ込もうとした。
アキラがすかさず、空に魔物封じの印を指で描いた。
大ムカデが、見えない何かに縛られて、動きを止める。
アキラは、狩衣の袂から小刀をとりだした。
「呪を返します」
破られた呪詛は、同等の力を持って、それを施した術者の元に返る。
陰陽の道の定めだ。
思い当たって、佐為は心配そうにアキラを見た。
「呪詛を施した者の近くにいるだろうヒカルは、大丈夫でしょうか?」
「これだけ、強い呪の力が返されるのです。確かに、近衛にも害が及ばない
よう、前もって手を打って置いたほうがいいかもしれません」
言って、アキラは空に向かって小さく誰かの名前をつぶやいた。すぐに
上空に一羽の鳥が現れる。逆光でよく見えなかったが、佐為にはその鳥が
カラスのように思われた。鳥にアキラが何事かを命令する。
空にひとつ輪を描いてから、鳥は飛び去った。
「では…」
アキラがあらためて大ムカデに歩み寄り、小刀を鞘から引き抜いた。
その刃が、身動きできないその禍々しい生き物の頭部に垂直に突き
立てられた。
ムカデがギチギチと断末魔の鳴き声をあげて、身をうねらせた。
竹林を、ゴウと音を立てて、強い風が吹き抜けた。
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