平安幻想異聞録-異聞- 216
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東の空が明け初める少し前、その部屋の真ん中にヒカルはひとりで
転がっていた。
精液だか体液だかわからない、透明な粘液に、体中をドロドロにまみれさせて。
いつもの侍女が、身動きしないヒカルを助け起こし、その汚れきった体を、
やはり無表情のまま洗い清めた。
ヒカルは気を失ってはいなかった。ただその薄く開かれた目は、
疲れきったようにぼんやりと何処も見ておらず、侍女のなすがままに
なっていた。
着衣を整えて貰った後、ヒカルは朦朧とした意識のまま、新しいものに
取り換えられた褥の上で眠りに落ちた。
夜が明けてから、再び侍女が出仕のための着替えを持ってヒカルの元にきたが、
その時すでにヒカルは高い熱を発していた。
こうも連日連夜責められて、今まで大丈夫だった方がおかしいのだ。
それに加え、昨夜の魔物に体だけでなく、心の奥までも蹂躙された感覚が、
ヒカルの疲弊をより重いものにしていた。
心の弱い者ならとうに正気を失っているだろう状態だった。
ヒカルのその様子を確認して、さしもの座間も今日は無理に警護役を
務めろとは言わず、他の衛士達を伴って内裏に向かった。
その朝の屋敷の喧騒を耳にしながら、ヒカルはうとうとと再び目を閉じた。
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