平安幻想異聞録-異聞- 217


(217)
それから、どれくらい時間がたったろう?
ヒカルは異様な息苦しさに目が覚めた。
熱のせいではない。胸の上に何かを乗せられているような、そんな
息苦しさだ。
御簾の隙間から部屋に差し込む陽の光りの角度や、室内の温度からしても、
先ほど眠りについてからそんなに時間は経っていないはずだ。
まだ、朝といっていいだろう。
(なのに、この空気は……?)
瘴気、というのだろうか。
何か匂いがするわけでもない。また気配がするわけでもない。ただ、
「嫌な感じ」がするとしかいいようのないような――。
すいっと、なめらかに御簾が巻き上げられて、そこに桔梗襲ねの十二単衣を
まとった美しいひとりの女がたっていた。
頭に一昨日の夜、自分の身を貪った妖しの女の事が浮かぶ。
思わず身構えたヒカルに、女は軽く一礼した。
「近衛殿にお渡しするものがあり、やって参りました」
漂う瘴気はこの女からのものではない。
瞳の瞳孔の形もちゃんと人と同じで、黒くキラキラとしている。
どうやら、妖魔の類いではないようだ。
そういえば、その鋭利な面ざしがどこか賀茂アキラに似ているのは気の
せいだろうか?
「あんた、誰?」
「近衛殿とは、一度会った事がございますが、覚えてはおられますまい。
 今日はこれを近衛殿にお渡しするためにこの姿でまいりました」
そう言って、女が懐中からとりだしたのは、一本の剣。
柄から鞘にかけて、明るい銅色の上に薄く龍の文様が浮かび上がっている。
それは、アキラや佐為と知りあった妖怪退治の折り、ヒカルに
預けられていたあの太刀だった。



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