トーヤアキラの一日 22
(22)
家に帰ると、アキラの後悔は膨らむばかりだった。
なぜいきなり告白してしまったのだろう。自分はどんな返事を期待していたのだろう。
なぜ時間をかけて想いを伝える方法を考えなかったのだろう。せっかくヒカルが「時々
碁の話がしたい」と言ってくれたのに、なぜ自分でその機会を壊す事をしてしまったの
だろう。軽蔑されて一緒に碁を打つことすら出来なくなるかもしれない。
一度落ち込むと、限りなく負の思考に陥って行く。ただ、ヒカルの事を好きだ、と言う
気持ちだけは、さらに強くなるのを感じていた。
二日、三日、そして一週間経ってもヒカルからの連絡は無かった。
じっくりヒカルの返事を待つつもりのアキラだったが、不安は日毎に増していく。
その不安な気持ちをエネルギーに変えて、アキラは碁に打ち込んでいた。頭の中は碁の
事で一杯であり、またヒカルの事でも一杯だった。碁に集中している時は一切の雑念を
排除して集中していたし、ヒカルの事を想う時は、他の事は全く考えられなかった。
告白して二週間が過ぎた頃に、棋院でヒカルとすれ違って声もかけられなかった時から、
更に一週間以上が経過したが、ヒカルからの連絡は全く無かった。
アキラは絶望の淵に居た。これと似たような気持ちをかつて感じた事があるような気がした。
───そうだ、進藤との二回目の対局の後だ。
完膚なきまでに叩きのめされて、完全に自信を無くして絶望の底に居た。だが、あの時は
恐れを勇気に代えてヒカルと立ち向かう事に決めたのだ。
───このままでは一歩も前に進めない。とにかく勇気を持って進藤に会おう。
アキラは、ヒカルに会って自分の想いをもう一度強く伝えることに決めた。その上で受け
入れてもらえないなら、諦める代わりに今までのように普通に碁の話をしてくれるように
頼む事にした。
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