アキラとヒカル−湯煙旅情編− 22
(22)
窓を開けると、夜気が忍び込み、火照った体に心地よい。
加賀は煙草に火を点けると、うまそうに吸い込み、アキラにかからないように煙を吐き出した。
額に張り付いた前髪を梳き、額に口づける。無骨な加賀とはかけ離れて見えるそんな繊細な優しさを、アキラは知っていた。ずっとこの優しさを独占してきた。
アキラの瞳を覗き込むと、加賀は愛しそうにその頬を撫で、静かに笑んだ。
見つめあっていた視線を、アキラが、そらす。
その瞳から、次々と雫が生まれ、零れ落ちた。
「後悔してるのか・・・?」
とめどなく溢れる雫を吸い、加賀は問う。
「ボクは・・・利用したんだ。たぶん、自分が救われる為に、あなたを・・・。」
加賀は、しばらく宙を見つめる。
そして煙草の火を缶ビールの空き缶でもみ消すと、アキラの頬を両手で包み込んだ。
「このまんま、おまえ浚っていきてえよ。誰の手も届かねえとこによ。」
アキラをかき抱くと、その腕に力を込める。誰にも渡さないというように、大切にアキラを包み込み、抱きしめる。
強い眼差し。狂おしいほど激しくアキラを貫く、真摯な眼差し。
アキラの瞳から新しい雫が零れ落ちた。
「・・・・・・なんてな。・・・おまえに利用されるなら、本望だ。」
加賀はその涙に口づけると、優しげに髪を撫でた。
闇と穏かな沈黙が一時、ふたりを支配した。
|