落日 22


(22)
半ばまだ眠りの中にいるようなぼんやりとした意識の中に届いた言葉が、混乱を呼んだ。
「守る」?
誰が、誰を、守るのだ?
よく似た言葉を前に聞いた事がある。
「俺がおまえの事は守ってやるから、ずっと一緒にいてやるからさ。」
そう言ったのは誰だった?
「だから誰かに苛められたら真っ先に俺に会いに来いよ。」
誰に向かって言った言葉だった?
そして自分は、今ここにいる自分は、一体何物だ?

「誰にも、おまえを傷つけさせたりしない。おまえを守れるのは俺だ。」
次いで聞こえた言葉に頭を振る。
なんだ、それは。
そんなもの、要らない。
守ってなんか欲しくない。
守りたかったのは自分だ。自分の方だ。
彼を守れなかった自分を、誰がどうやって守るって?
そんなものは要らない。庇護など必要ない。
傷つく事など恐れていない。傷が癒える事など望まない。

守ってやれなかった、大事なひと。
守るどころか、彼がどのような目にあって、どのような思いで自分を訪ねてきてくれたのか、気付き
もしなかった。
あの時俺は嬉しかった。幸せだった。
佐為が俺に会いに来てくれて、俺を頼ってくれて。そして優しくしてくれて。初めて俺を抱きしめて
くれて、俺を愛してくれて。
俺は幸せだった。
同じ時に佐為が、どんな思いをしていたかも知らずに。



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