失楽園 22


(22)
(塔矢……?)
 ヒカルはアキラの手の震えに尋常ではないものを感じた。エアコンに温度を完全に制御された
この部屋で、アキラの額に浮かぶ汗の量は不思議なほどだ。ヒカルは首を傾げる。
「とう……」
 ヒカルはアキラを呼ぶために口を開いた。
「ああ、アキラくんと寝たんならオマエも知ってるか」
「……そんなの、知らねェよっ!」
 ヒカルの言葉を遮って、さも面白くないと言わんばかりに吐き棄てる緒方にヒカルはカッとなっ
て言い返す。そしてまたすぐにアキラを見上げた。
「塔矢、どうして先生にこんなことさせてんだよ……なんでボサっと立って見てんだよ」
 ヒカルは焦れた。アキラは汗を滲ませながらも、緒方の局部とヒカルの間に視線をさまよわせ
決して動き出そうとはしない。
「塔矢……!」
 ヒカルは再度アキラの名を呼んだ。この狂乱から救えるのはアキラしかいない。そのことを
ヒカルは直感で知っていた。剥き出しの自身を昂めるように撫でている緒方は、恐らくヒカルを
アキラへの嫌がらせの道具のようにしか見ていないのだ。
 自分にも判っていることなのだから、アキラが気づかないはずがない。
 塔矢―――
 一向に動き出そうとしないアキラに、ヒカルは鋭く舌打ちした。
 若い2人は月と太陽、静と動――そのようなイメージでまるで対極にいるが、それぞれ危うい
魅力に満ちている。
 立ち尽くすアキラと焦れるヒカルの様子を、緒方は笑みを浮かべて鑑賞していた。



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