初めての体験+Aside 22 - 23


(22)
 「じゃ、シチュー…」
ヒカルもめげていない。シチュー!!
「同じようなもんだろ―――」
倉田は軽くヒカルをあしらった。
「んじゃ、肉じゃが…」
肉じゃが!!!ヒカルの肉じゃが…食べたい…。
「材料、一緒じゃんか…」
倉田はやれやれと言った様子で答える。
「白滝も入るよ……」
困ったように上目遣いに倉田を見つめるヒカルは、超ラブリーだ。
 「しょうがない…それでいいよ…」
溜息混じりに了承する倉田に、社は伏し拝まんばかり感謝した。さっきの暴言は取り消します。
ありがとう。そのうち棋聖。

 「進藤は可愛いから、それで我慢してやるよ。」
と、えらそうな言い方だが、ヒカルを見る目は優しい。心なしか頬が紅い。まさか…。
 気のせいだと思いたい。取り敢えず、見なかったことにした。


(23)
 そんなこんなで、いろいろあったが、それでも穏やかに時間は過ぎていった。だが、
事件は突然起こった。それは、昼食後に打ったヒカルとアキラの対局が終了したときの
ことであった。
 「五目半の負けか…」
ヒカルが悔しげに呟いた。検討が始まっても、ヒカルはむっつりと黙り込んだままだった。
「何もかもダメだ!」と、荒れるヒカルを倉田が宥めた。が、ヒカルはそれに答えず、背中を
向けてしまった。社は些か驚いた。負けたとは言え、ヒカルの強さも半端ではない。
倉田の言うように、いい碁だと自分も思ったのだが…。なんでやろ?
 こんなヒカルを見るのは初めてだった。いつも明るくて、素直なヒカルにこんな一面が
あったとは…。ヒカルは拗ねたまま、三人の話に加わろうとしない。けれど、そんな姿を
見ても社が思うのは
『進藤、拗ねた顔もメッチャ可愛い―――!!』
だけだった。
 つむじを曲げたままのヒカルを無視して、倉田が話を続ける。大将はアキラ、副将は
ヒカル、三将が社。
「社、文句ある?」
倉田の言葉に、ヒカルの方が反応した。
「ある!」
ヒカルは神妙な顔つきで、
「オレ……大将ダメかな?」
と、言う。
 アキラも社も面食らってしまった。ヒカルがそんなことを言い出すとは思ってもいなかった。
「ヤダネ!」
倉田はにべもなく断った。しかも、アカンベつきである。
 確かに、ヒカルの態度はよくないが、倉田も大人げないではないか。こんなことを言うからには、
ヒカルにはヒカルなりの何か深い理由があるのだろうに…。それを「ガキだな!」の
一言で切り捨てることはないだろう!
 社が憤慨しているその横から、急に冷たい空気が流れてきた。寒!!恐る恐るそちらの方を
見るとアキラが倉田を冷ややかな目で見ていた。特に怒っている様子には見えないが…。
社の頭の中を「八甲田山」「シベリア凍土」などと訳のわからない言葉が通り過ぎていった。
―――――なんや!?何でこんな言葉が浮かぶんや?
怖くてアキラと視線をあわせることが出来なかった。



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