初めての体験 22 - 27


(22)
 「せっかく訪ねてくれたのにすまないな。今日はアキラは出かけているのだよ。」
と、アキラの父・塔矢行洋は言った。もちろん、ヒカルはそのことを知っていた。
が、それを口に出す必要はない。そして、表面上は、いかにも残念そうに言った。
「そうですか・・・。残念です。」
ヒカルのそんな顔を見て、塔矢行洋は、
「まあ、せっかく来たんだし一局打っていきなさい。」
と、言った。ヒカルの顔がパッと明るくなった。
「はい。是非、おねがいします。」
ヒカルは笑顔で言った。行洋は苦笑しながら、言った。
「今日はあいにく、妻も出かけているのでお茶もだせないが・・・。」
「気を使わないでください。」
と、ヒカルは殊勝に答えたが、実際はそのことも、チェック済みであった。

 行洋が、ヒカルの打った手を一つずつ解説していく。ヒカルは行洋の指先を見つめながら、
真剣に耳を傾けた。
 碁笥を碁盤の上に置き、ヒカルは改めて、行洋の横に座り直して、頭を下げた。
「先生、今日は本当にありがとうございました。」
「いや、かまわないよ。また、いつでも来なさい。」
と、行洋は笑顔で答えた。行洋はヒカルに好意をいだいていた。囲碁の腕もさることながら、
明るくて、人懐っこい少年。そして、アキラの親友でもある。同じ年頃の友人のいない息子の
唯一無二ともいえる存在の少年である。気に入らないわけがなかった。
 そのお気に入りの少年が行洋を恥ずかしそうに見つめて言った。
「先生。こんなこと言ったら怒るかもしれないけど・・・。ホントはオレ、もし、
先生に勝てたら・・・先生に頼みたいことがあったんです・・・。」
「何だね?言ってみなさい。できることならかまわないよ。」
行洋は笑みを浮かべた。息子のアキラは周りに大人が多いせいか、大人びた少年だった。
ヒカルはまるで正反対、実際の年齢よりずっと幼く見えた。行洋は、この少年の頼みを聞いて
あげたくなったのだ。
「ホント?ありがとうございます!」
ヒカルは、行洋にいきなり抱きついた。


(23)
 「し、進藤君!?」
行洋が狼狽えた。ヒカルが耳元で囁いた。
「先生・・・いいでしょ?」
ヒカルが行洋の耳をかんだ。舌を耳に差し入れ、手を着物の襟元へ滑らした。
と、その手を行洋が捻り上げた。ヒカルはその痛さに顔をしかめた。行洋がヒカルの目を
見据えて静かに言った。
「大人をからかうとは悪い子だ。だが・・・これは君が仕掛けたことだからな。」
言うが早いか、ヒカルはそのまま畳の上に引き倒された。そのまま、手荒く服を
はぎ取られていく。シャツをまくり上げ、ジーパンを引きずりおろされた。
ヒカルは驚きのあまり、固まってしまった。今までは、動けなくなるのは相手の方だった。
ヒカルが潤んだ瞳で見つめ、甘い声で囁くと、大概の男は抵抗をやめ、ヒカルに屈した。
それなのに・・・!
 ヒカルは初めて、男を怖いと思った。全裸で転がされたヒカルに、行洋がゆっくりと
かぶさってきた。ヒカルは逃げようとした。が、全身でのしかかられて身動きがとれなかった。
「どうして逃げるんだ?君が望んだことだろう?」
「やだ!先生・・・ごめんなさい!・・・!」
行洋がヒカルの唇を荒々しく塞いだ。顎を強く掴み、無理矢理、口を開かせた。舌でヒカルの
口腔内を蹂躙した。顎が痛い。怖い。ヒカルの目から涙が流れた。
 こんな行洋を見たのは初めてだった。いつも穏やかでおよそ激高したことがない。
だが、行洋はアキラの父親なのだ。あのアキラの・・・。ヒカルは行洋を甘く見すぎていたことを
心底後悔した。
 泣いているヒカルを一瞥して、行洋は薄く笑った。このあたりで許してやろうか。
そうして、改めてヒカルの全身を眺めた。細い肩、それに続くなだらかな曲線、華奢な手足、
小麦色の肌。昨日つけられた痣が全身に点在している。その姿は行洋を煽った。
 「と・・・や・・・せん・・・せ?」
ヒカルが恐る恐る訊ねた。行洋は無言で、再びヒカルを押さえつけた。


(24)
 行洋の手がヒカルの体を荒々しくまさぐった。その乱暴なやり方にヒカルは喘いだ。
ヒカルは涙を流しながら、行洋に謝り続けた。
「ごめ・・・なさ・・・せん・・・せ・・・ごめ・・・」
その泣き声が行洋をますます煽る。
 行洋は自分が冷静さを失っているのを自覚していた。ヒカルの喉元に強く吸い付き、
徐々に下に移動する。行洋がヒカルの痣を辿った。アキラがつけた痣を・・・。
乳首を口に含み、舐めあげる。両の乳首を交互になぶり、弄ぶ。
「ああ!先生、やだ!」
ヒカルが身悶えた。行洋は、かまわず、そのまま続けた。涙があふれてきた。
ヒカルは歯を食いしばって耐えた。その口をこじ開けて、行洋は自分の指をつっこんだ。そうして、低い声でヒカルに命じた。
「舐めなさい。」
ヒカルは怯えながら、懸命にその指を舐めた。もう、逆らうことはできなかった。行洋の指が、ヒカルの唾液でぬらぬらと光った。
 行洋はヒカルを犬のように、四つん這いにさせた。そして、後ろに、十分に
湿らせた指を一本ずつ入れた。ヒカルの体が小刻みにふるえた。

「せん・・せい・・・ゆる・・して・・ごめ・・」
ヒカルの耳に衣擦れの音が聞こえた。堅い物があたった。ヒカルは必死で
許しを請い続けた。涙が畳の上にぽたぽたと落ちた。
 だが、行洋はヒカルの腰を強く掴むと、無情にもそのまま突き入れた。
「───────────────!!」
ヒカルが細い悲鳴を上げた。


(25)
 行洋に揺さぶられている間も、ヒカルは泣きながら「ごめんなさい」を
繰り返した。そんな、ヒカルの怯える様がますます行洋を残酷にした。
泣きながら、ヒカルが達した時、体の中に熱いものを感じた。
 
 行洋が衣服を整えてくれている間も、ヒカルは俯いて、泣きじゃくっていた。
行洋は後悔した。いくら何でもやりすぎたのではないか?・・・と。
最初は軽くお仕置きをするだけのつもりだったのだが・・・。
どうして、ここまでムキになってしまったのだろうか・・・。
 行洋は、ヒックヒックとしゃくり上げているヒカルの背中を優しくさすった。
「すまなかったね・・・。でも、大人を甘く見ると怖い目に遭うってわかったろう。
 もう、二度とこんなまねをしてはいけないよ。」
いつもの穏やかな物言いに、ヒカルはコクンと頷いた。幼い子供のような仕草だった。
 「いい子だ。」
行洋が、愛おしむようにヒカルの頭を撫でた。俯いたヒカルの口元に、
小さな笑みが浮かんでいることには気づかなかった。




 塔矢先生・・・さすが現代の棋聖。引退したとはいえ、未だ王者の貫禄。

 ヒカルがシステム手帳に書き加えたとき、ちょうどアキラが来た。いつもの
碁会所で待ち合わせをしていたのだ。アキラが息を切らせて、ヒカルに言った。
「進藤。昨日はごめん。急に取材が入ってしまって。」
「仕事ならしょうがねぇよ。気にすんなって。」
と、ヒカルがにっこり笑ってアキラに言った。そして、アキラをじっと見つめた。
 「な、何?進藤、急にじっと見つめたりして。」
アキラは赤くなって狼狽えた。ヒカルは大きな目でアキラを見つめながら
「塔矢って、塔矢先生によく似てんなぁ。」
と、感心するように言った。
「え?そうかな?ボクはお母さん似だって、よく言われるけど・・・。」
アキラは面食らって、まじまじとヒカルを見返した。『全く・・・進藤は
唐突だな』と思った。
「外見の話しじゃねぇよ。性格の話し。碁の打ち方とか・・・さ。」
ヒカルはうっとりとアキラを見つめ続ける。
「だとしたら、嬉しいな。ボクはお父さんが目標なんだ。」
アキラが微笑んだ。
「きっと塔矢先生みたいになるよ。楽しみだな。ホント!」
ヒカルは心底嬉しそうに言った。

<終>


(26)
 ヒカルは壇上にあがる門脇を見た。ヒカルは彼を知っていた。院生だった頃、
門脇に頼まれて、対局したことがあった。そこそこ強い相手だと思って、佐為に打たせたのだ。
だが、ヒカルの予想に反して、門脇はかなり強かった。もし、佐為ではなく、自分が
打っていたら、果たして勝てたかどうか。いや、きっと、負けていたであろう。
ヒカルは、門脇が元学生三冠であったとは、知らなかった。
「プロになるくらい強かったんだ・・・。」
通りすがりに打っただけの相手に、ヒカルは興味を持った。

 「おじさん!」

 「おじさんだとぉ?」
いきなり背後から声をかけられ、門脇が顔を引きつらせながら、振り返った。
目の前に小柄な少年が立っていた。大きな瞳をくりくりさせて、門脇を笑って見ていた。
「おじさん・・・門脇さん、おめでとう。」
「あ・・・ありがとう。」
門脇は少し、狼狽えた。一年前、この目の前の少年に、こてんぱんにやられた
時のことは、今も鮮やかに記憶に残っている。
その時、自分がいかに甘かったのか思い知った。一念発起し、一から勉強を
やり直した。
「門脇さん、プロになったんだ。道理で強いと思った。」
ヒカルが、無邪気にニコニコと笑った。
「うん・・・。お前・・・君もね。」
門脇は照れながら答えた。去年、新聞でヒカルがプロ試験に合格しているのを見た。
そんな相手を肩慣らしに使おうとしていたとは・・・。と、苦笑した。

 しばらく、たわいない世間話をして、少し打ち解けた頃、ヒカルが、門脇に切り出した。
「門脇さん・・・オレ、前に門脇さんのお願いきいてあげたよね?」
「うん?そうだったな。」
「今度はオレの頼みきいてくれないかな?」
門脇はおいおいと思った。普通、こういう場合は逆じゃないのか?合格祝いに
オレの頼みをきいてくれるものだろう。だが、実際ヒカルに頼みをきいて
貰ったのは事実だし・・・。ムキになるのも大人げない。
「だめ?」
ヒカルが、上目遣いで見つめてくる。吸い込まれそうな瞳だった。
門脇は、思わず頷いてしまった。


(27)
 「で・・・頼みって何?」
ヒカルは、棋院の対局室に門脇を連れていった。
「人にきかれちゃまずいことなのかい?」
「門脇さん・・・オレと・・・してくれないかな?」
ヒカルが門脇を恥ずかしそうに見た。
「へ・・・?」
門脇は、ヒカルが何を言ったのか一瞬わからなかった。間抜け面で聞き返した。そんな門脇の鼻先へヒカルがチュッとキスをした。はにかんで、
ニコッと笑う姿が恐ろしく可愛かった。
 『これは・・・合格祝いってことかな?』門脇はヒカルを抱き込んだ。

 門脇がヒカルのジャケットを脱がせ、ネクタイに手をかけた。「あっ」と
ヒカルが呟いた。
「何?」
「門脇さん・・・オレ、ネクタイ結べない・・・」
門脇は吹き出しそうになった。こんな場面でネクタイの心配をするなんて・・・。
クックッと笑いながら、ヒカルのネクタイをほどいた。
「オレが結んでやるよ。」
 ヒカルを畳の上に横たえさせると、門脇はヒカルのYシャツのボタンをはずした。
前を開くと、可愛らしく色づいた乳首が現れた。門脇の喉がなる。逸る気持ちを
押さえ、門脇はヒカルの服を一つずつ剥いでいった。Yシャツ一枚残して、
全部脱がした。そのシャツも腕のあたりまで、ずらされている。門脇は
ヒカルをまじまじと改めて見つめ直した。
 「あんまり見ないでよ・・・」
ヒカルが恥ずかしそうに言った。自分の体を隠すように横向きになっている。
中途半端にシャツをまとった状態は、かえって門脇の目に扇情的に映った。
門脇は、ヒカルを再び仰向けに直すと、そのままゆっくりと覆い被さった。



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