初めての体験 22 - 30


(22)
 「せっかく訪ねてくれたのにすまないな。今日はアキラは出かけているのだよ。」
と、アキラの父・塔矢行洋は言った。もちろん、ヒカルはそのことを知っていた。
が、それを口に出す必要はない。そして、表面上は、いかにも残念そうに言った。
「そうですか・・・。残念です。」
ヒカルのそんな顔を見て、塔矢行洋は、
「まあ、せっかく来たんだし一局打っていきなさい。」
と、言った。ヒカルの顔がパッと明るくなった。
「はい。是非、おねがいします。」
ヒカルは笑顔で言った。行洋は苦笑しながら、言った。
「今日はあいにく、妻も出かけているのでお茶もだせないが・・・。」
「気を使わないでください。」
と、ヒカルは殊勝に答えたが、実際はそのことも、チェック済みであった。

 行洋が、ヒカルの打った手を一つずつ解説していく。ヒカルは行洋の指先を見つめながら、
真剣に耳を傾けた。
 碁笥を碁盤の上に置き、ヒカルは改めて、行洋の横に座り直して、頭を下げた。
「先生、今日は本当にありがとうございました。」
「いや、かまわないよ。また、いつでも来なさい。」
と、行洋は笑顔で答えた。行洋はヒカルに好意をいだいていた。囲碁の腕もさることながら、
明るくて、人懐っこい少年。そして、アキラの親友でもある。同じ年頃の友人のいない息子の
唯一無二ともいえる存在の少年である。気に入らないわけがなかった。
 そのお気に入りの少年が行洋を恥ずかしそうに見つめて言った。
「先生。こんなこと言ったら怒るかもしれないけど・・・。ホントはオレ、もし、
先生に勝てたら・・・先生に頼みたいことがあったんです・・・。」
「何だね?言ってみなさい。できることならかまわないよ。」
行洋は笑みを浮かべた。息子のアキラは周りに大人が多いせいか、大人びた少年だった。
ヒカルはまるで正反対、実際の年齢よりずっと幼く見えた。行洋は、この少年の頼みを聞いて
あげたくなったのだ。
「ホント?ありがとうございます!」
ヒカルは、行洋にいきなり抱きついた。


(23)
 「し、進藤君!?」
行洋が狼狽えた。ヒカルが耳元で囁いた。
「先生・・・いいでしょ?」
ヒカルが行洋の耳をかんだ。舌を耳に差し入れ、手を着物の襟元へ滑らした。
と、その手を行洋が捻り上げた。ヒカルはその痛さに顔をしかめた。行洋がヒカルの目を
見据えて静かに言った。
「大人をからかうとは悪い子だ。だが・・・これは君が仕掛けたことだからな。」
言うが早いか、ヒカルはそのまま畳の上に引き倒された。そのまま、手荒く服を
はぎ取られていく。シャツをまくり上げ、ジーパンを引きずりおろされた。
ヒカルは驚きのあまり、固まってしまった。今までは、動けなくなるのは相手の方だった。
ヒカルが潤んだ瞳で見つめ、甘い声で囁くと、大概の男は抵抗をやめ、ヒカルに屈した。
それなのに・・・!
 ヒカルは初めて、男を怖いと思った。全裸で転がされたヒカルに、行洋がゆっくりと
かぶさってきた。ヒカルは逃げようとした。が、全身でのしかかられて身動きがとれなかった。
「どうして逃げるんだ?君が望んだことだろう?」
「やだ!先生・・・ごめんなさい!・・・!」
行洋がヒカルの唇を荒々しく塞いだ。顎を強く掴み、無理矢理、口を開かせた。舌でヒカルの
口腔内を蹂躙した。顎が痛い。怖い。ヒカルの目から涙が流れた。
 こんな行洋を見たのは初めてだった。いつも穏やかでおよそ激高したことがない。
だが、行洋はアキラの父親なのだ。あのアキラの・・・。ヒカルは行洋を甘く見すぎていたことを
心底後悔した。
 泣いているヒカルを一瞥して、行洋は薄く笑った。このあたりで許してやろうか。
そうして、改めてヒカルの全身を眺めた。細い肩、それに続くなだらかな曲線、華奢な手足、
小麦色の肌。昨日つけられた痣が全身に点在している。その姿は行洋を煽った。
 「と・・・や・・・せん・・・せ?」
ヒカルが恐る恐る訊ねた。行洋は無言で、再びヒカルを押さえつけた。


(24)
 行洋の手がヒカルの体を荒々しくまさぐった。その乱暴なやり方にヒカルは喘いだ。
ヒカルは涙を流しながら、行洋に謝り続けた。
「ごめ・・・なさ・・・せん・・・せ・・・ごめ・・・」
その泣き声が行洋をますます煽る。
 行洋は自分が冷静さを失っているのを自覚していた。ヒカルの喉元に強く吸い付き、
徐々に下に移動する。行洋がヒカルの痣を辿った。アキラがつけた痣を・・・。
乳首を口に含み、舐めあげる。両の乳首を交互になぶり、弄ぶ。
「ああ!先生、やだ!」
ヒカルが身悶えた。行洋は、かまわず、そのまま続けた。涙があふれてきた。
ヒカルは歯を食いしばって耐えた。その口をこじ開けて、行洋は自分の指をつっこんだ。そうして、低い声でヒカルに命じた。
「舐めなさい。」
ヒカルは怯えながら、懸命にその指を舐めた。もう、逆らうことはできなかった。行洋の指が、ヒカルの唾液でぬらぬらと光った。
 行洋はヒカルを犬のように、四つん這いにさせた。そして、後ろに、十分に
湿らせた指を一本ずつ入れた。ヒカルの体が小刻みにふるえた。

「せん・・せい・・・ゆる・・して・・ごめ・・」
ヒカルの耳に衣擦れの音が聞こえた。堅い物があたった。ヒカルは必死で
許しを請い続けた。涙が畳の上にぽたぽたと落ちた。
 だが、行洋はヒカルの腰を強く掴むと、無情にもそのまま突き入れた。
「───────────────!!」
ヒカルが細い悲鳴を上げた。


(25)
 行洋に揺さぶられている間も、ヒカルは泣きながら「ごめんなさい」を
繰り返した。そんな、ヒカルの怯える様がますます行洋を残酷にした。
泣きながら、ヒカルが達した時、体の中に熱いものを感じた。
 
 行洋が衣服を整えてくれている間も、ヒカルは俯いて、泣きじゃくっていた。
行洋は後悔した。いくら何でもやりすぎたのではないか?・・・と。
最初は軽くお仕置きをするだけのつもりだったのだが・・・。
どうして、ここまでムキになってしまったのだろうか・・・。
 行洋は、ヒックヒックとしゃくり上げているヒカルの背中を優しくさすった。
「すまなかったね・・・。でも、大人を甘く見ると怖い目に遭うってわかったろう。
 もう、二度とこんなまねをしてはいけないよ。」
いつもの穏やかな物言いに、ヒカルはコクンと頷いた。幼い子供のような仕草だった。
 「いい子だ。」
行洋が、愛おしむようにヒカルの頭を撫でた。俯いたヒカルの口元に、
小さな笑みが浮かんでいることには気づかなかった。




 塔矢先生・・・さすが現代の棋聖。引退したとはいえ、未だ王者の貫禄。

 ヒカルがシステム手帳に書き加えたとき、ちょうどアキラが来た。いつもの
碁会所で待ち合わせをしていたのだ。アキラが息を切らせて、ヒカルに言った。
「進藤。昨日はごめん。急に取材が入ってしまって。」
「仕事ならしょうがねぇよ。気にすんなって。」
と、ヒカルがにっこり笑ってアキラに言った。そして、アキラをじっと見つめた。
 「な、何?進藤、急にじっと見つめたりして。」
アキラは赤くなって狼狽えた。ヒカルは大きな目でアキラを見つめながら
「塔矢って、塔矢先生によく似てんなぁ。」
と、感心するように言った。
「え?そうかな?ボクはお母さん似だって、よく言われるけど・・・。」
アキラは面食らって、まじまじとヒカルを見返した。『全く・・・進藤は
唐突だな』と思った。
「外見の話しじゃねぇよ。性格の話し。碁の打ち方とか・・・さ。」
ヒカルはうっとりとアキラを見つめ続ける。
「だとしたら、嬉しいな。ボクはお父さんが目標なんだ。」
アキラが微笑んだ。
「きっと塔矢先生みたいになるよ。楽しみだな。ホント!」
ヒカルは心底嬉しそうに言った。

<終>


(26)
 ヒカルは壇上にあがる門脇を見た。ヒカルは彼を知っていた。院生だった頃、
門脇に頼まれて、対局したことがあった。そこそこ強い相手だと思って、佐為に打たせたのだ。
だが、ヒカルの予想に反して、門脇はかなり強かった。もし、佐為ではなく、自分が
打っていたら、果たして勝てたかどうか。いや、きっと、負けていたであろう。
ヒカルは、門脇が元学生三冠であったとは、知らなかった。
「プロになるくらい強かったんだ・・・。」
通りすがりに打っただけの相手に、ヒカルは興味を持った。

 「おじさん!」

 「おじさんだとぉ?」
いきなり背後から声をかけられ、門脇が顔を引きつらせながら、振り返った。
目の前に小柄な少年が立っていた。大きな瞳をくりくりさせて、門脇を笑って見ていた。
「おじさん・・・門脇さん、おめでとう。」
「あ・・・ありがとう。」
門脇は少し、狼狽えた。一年前、この目の前の少年に、こてんぱんにやられた
時のことは、今も鮮やかに記憶に残っている。
その時、自分がいかに甘かったのか思い知った。一念発起し、一から勉強を
やり直した。
「門脇さん、プロになったんだ。道理で強いと思った。」
ヒカルが、無邪気にニコニコと笑った。
「うん・・・。お前・・・君もね。」
門脇は照れながら答えた。去年、新聞でヒカルがプロ試験に合格しているのを見た。
そんな相手を肩慣らしに使おうとしていたとは・・・。と、苦笑した。

 しばらく、たわいない世間話をして、少し打ち解けた頃、ヒカルが、門脇に切り出した。
「門脇さん・・・オレ、前に門脇さんのお願いきいてあげたよね?」
「うん?そうだったな。」
「今度はオレの頼みきいてくれないかな?」
門脇はおいおいと思った。普通、こういう場合は逆じゃないのか?合格祝いに
オレの頼みをきいてくれるものだろう。だが、実際ヒカルに頼みをきいて
貰ったのは事実だし・・・。ムキになるのも大人げない。
「だめ?」
ヒカルが、上目遣いで見つめてくる。吸い込まれそうな瞳だった。
門脇は、思わず頷いてしまった。


(27)
 「で・・・頼みって何?」
ヒカルは、棋院の対局室に門脇を連れていった。
「人にきかれちゃまずいことなのかい?」
「門脇さん・・・オレと・・・してくれないかな?」
ヒカルが門脇を恥ずかしそうに見た。
「へ・・・?」
門脇は、ヒカルが何を言ったのか一瞬わからなかった。間抜け面で聞き返した。そんな門脇の鼻先へヒカルがチュッとキスをした。はにかんで、
ニコッと笑う姿が恐ろしく可愛かった。
 『これは・・・合格祝いってことかな?』門脇はヒカルを抱き込んだ。

 門脇がヒカルのジャケットを脱がせ、ネクタイに手をかけた。「あっ」と
ヒカルが呟いた。
「何?」
「門脇さん・・・オレ、ネクタイ結べない・・・」
門脇は吹き出しそうになった。こんな場面でネクタイの心配をするなんて・・・。
クックッと笑いながら、ヒカルのネクタイをほどいた。
「オレが結んでやるよ。」
 ヒカルを畳の上に横たえさせると、門脇はヒカルのYシャツのボタンをはずした。
前を開くと、可愛らしく色づいた乳首が現れた。門脇の喉がなる。逸る気持ちを
押さえ、門脇はヒカルの服を一つずつ剥いでいった。Yシャツ一枚残して、
全部脱がした。そのシャツも腕のあたりまで、ずらされている。門脇は
ヒカルをまじまじと改めて見つめ直した。
 「あんまり見ないでよ・・・」
ヒカルが恥ずかしそうに言った。自分の体を隠すように横向きになっている。
中途半端にシャツをまとった状態は、かえって門脇の目に扇情的に映った。
門脇は、ヒカルを再び仰向けに直すと、そのままゆっくりと覆い被さった。


(28)
 門脇はヒカルにキスをした。舌を差し入れて、絡ませる。そうしながら、
手では胸元をまさぐった。
「あ・・・あん・・・んん」
ヒカルのあえぎ声が、門脇の口に吸い込まれた。
 門脇の指が、ヒカルの乳首をいじるたび、ヒカルの体がビクッとふるえた。
「や・・・やぁだ・・・」
ヒカルが体を仰け反らせた。シャツの隙間から、チラチラと薄い紅色の突起が
見え隠れする。門脇はそこを舐めた。歯で軽く突起を噛み、吸い上げる。
 「あ・・・ん・・・かど・・・き・・・」
ヒカルが金魚のように、口をパクパクと開けた。ハアハアという吐息が聞こえる。
 門脇は、しばらく口と手で乳首をなぶっていたが、やがて、ヒカルの下半身の方へ
手を這わせていった。
「あぁん・・・」
門脇の手の動きにヒカルが反応する。門脇はにんまりと笑った。ますます、
手を早める。ヒカルの呼吸が速くなった。
「ああ────────────!」
堪えきれず、ヒカルは門脇の掌に放ってしまった。
 門脇は、ヒカルの右足を自分の肩に掛けさせた。ヒカルのもので濡れた指を
喘いでいるヒカルの後ろにあてがった。そして、開いている方の手をヒカルの
腰の下に回し、体を心持ち、浮かせた。指を少しずつ侵入させた。
「あ!あ・・・あん・・・や・・・やだ・・・」
ヒカルが体を捩る。門脇はかまわず、指を一本ずつ増やしながら、前後にさすった。その刺激にヒカルが再び、立ち上がり始めた。
 門脇は指を引き抜くと、自分のものでヒカルを貫いた。
「────────────!」
ヒカルが声にならない悲鳴を上げた。


(29)
頬を紅潮させ、喘いでいるヒカルを揺すりながら、門脇は聞いた。
「なあ・・・何でオレを誘ったの?」
「かどわきさ・・・つよいから・・・オレ・・・」
ヒカルが荒い呼吸の下から、答える。
「強いから?」
「オレ・・・つよいひと・・・すき・・・だから・・・」
自分を負かした少年に強いと言われて、門脇は嬉しかった。
「オレ・・・本当は学生三冠だったんだ・・・お前に負けたけどな・・・」
と、ちょっと寂しげに笑って呟いた。
 その呟きがヒカルに聞こえたかどうかはわからなかった。門脇が与える
快感を、ヒカルは必死に追っていた。



 二人で授与式の会場に戻ったが、門脇とは入り口で分かれた。
アキラがヒカルを見つけて、駆けてくる。手には賞状を持っていた。
「進藤・・・!どこへ行っていたんだ?」
「ごめん。知ってる人に会って、外で話しをしてたんだ。」
ヒカルがアキラにペコッと頭を下げた。
「知ってる人ってさっきの人?」
アキラが怪訝そうに訊ねた。悪びれずヒカルは答えた。
「うん。元学生三冠だったんだぜ。どーりで強いはずだよ。」
「対局したことがあったんだ?」
「院生の頃、一度ね。」
ふーんとアキラは呟いて、そっとヒカルの手を握った。
「どうしたんだ?塔矢。」
ヒカルがアキラの顔を覗き込んだ。普段のアキラは人目があるところでは、
決してこんなことをしない。黙り込んでいるアキラの手をヒカルはぎゅっと握り返した。
「ごめん・・・。黙って出ていって・・・。帰ったら、二人でお祝いしよう。な?」
俯いているアキラに話しかけた。
「塔矢が、賞状うけとるとこ見れなかったな・・・。ごめん。」
アキラは顔を上げて、照れくさそうに言った。
「進藤・・・。ボクこそ子供みたいに拗ねたりして・・・。」
そして、ヒカルの手を強く握った。
ヒカルは『アキラは本当に可愛い』と思った。その『可愛い』には、もちろん、
色々な意味が含まれているのだが・・・。
 ヒカルは、アキラにじゃれつきながら、

 門脇・・・元学生三冠!油断大敵!やっぱつえーぜ!

と、手帳に書いておこうと思った。

<終>


(30)
 ヒカルは悔し涙にくれていた。思い出しても腹が立つ。いろんな男を手玉に取っていた
ヒカルだったが、いかがわしい男に拉致され、いいように弄ばれてしまったのだ。

 棋院からの帰りに浚われて、廃ビルの中で犯されてしまった。下半身を裸に剥かれ、
犬のように這わされた。腰を押さえ付けられて、何の準備もしてないところを、
思い切り貫かれたのだ。
 ものすごく痛かった。
「痛ぁ────────い!」
男は優しさのかけらもないやり方で、ガンガンとヒカルを突き上げた。
「痛・・・痛い・・・やめてよ・・・ねぇ・・・」
ヒカルが涙声で訴えたが、男は無慈悲にもヒカルを責め続けた。
 男が後ろの穴を出入りする度、グチュグチュといやらしい音がして、ヒカルの
羞恥心を煽った。体中がカッと熱くなった。
 激しく突き上げていた男の動きが、一瞬止まった。
「うっ!」と低く呻いて、男がヒカルの中に熱いものを放った。
 「う・・・うぇ・・うぅ・・・」
ヒカルが嗚咽を漏らした。『でも・・・これで帰してもらえる』犯されたことは
悔しくて悲しかったが、男が欲望を吐き出したことで、ヒカルは解放して
もらえると思った。
 だが、男はヒカルの中から出ていかなかった。再び動き始めた男に、
ヒカルは哀願した。
「ねえ・・・ね・・・やめてよ・・・ねぇ・・・」
男がヒカルの中に放った体液のおかげか、最初ほど激しい痛みはなかった。
男の動きも、先ほどより余裕が出来たのか、ゆっくりとしている。



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