平安幻想異聞録-異聞- 226
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馬上の賀茂アキラが、まっすぐにヒカルを見た。ヒカルは頷いて、腰に
剥き出しのまま挟んだ調伏刀に手をやった。あの妖怪退治の時と同じように、
まずはヒカルがアキラの盾になってあれと戦い、力をそいだ所を、アキラが
呪法を使って封じるのだ。
ヒカルは佐為の背中越しに、手綱を操って、白馬の首を再び座間邸へと
向けた。
「佐為、おまえは降りて、ここに残れ」
自分の前に座る佐為に告げる。
「何を言ってるんですか、ヒカル、私も…!」
「碁を打つしか能のないやつは、足手まといなんだよ!」
ヒカルはわざと一番きつい言葉を投げ掛けた。
佐為は一応、太刀を携えてはいるが、いざ、戦闘となれば、その剣の腕など
たかが知れている。遊びで何度か佐為と打ちあったことのあるヒカルは
それをよく知っている。
再びあの混乱の中に飛び込むことになったら、佐為は絶対に大怪我をする。
ただでさえ、万全の体調ではないヒカルに佐為をかばう余裕はないだろうし、
佐為にそんな怪我をさせたくなかった。
しかし、やんわりとした、生半可な拒絶の言葉では、この優しい人は付いて
行くと言ってきかないだろう。
だから、ヒカルは、佐為が一番傷付くだろう言葉を故意に選んだ。
それでも、少し心配になって、ヒカルは恐る恐る顔をあげて佐為の方を見る。
佐為が肩越しにヒカルを振り返って――微笑んでいた。
きつい言葉の向こうにあるヒカルの気持ちを、ちゃんとわかってくれたのだ。
体をねじって、佐為がヒカルの砂ぼこりにまみれた頭を抱き寄せる。
こめかみに軽い口付けが落ちた。
「気を付けて」
佐為が馬から飛び降りた。
ヒカルは馬の腹を蹴った。アキラも、通りに降り立った佐為に一礼してから、
走り出したヒカルの馬の後を追う。
二頭の馬は白い残像のような軌跡を残し、佐為の視界の中でみるみると
小さくなった。
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