日記 226 - 230
(226)
「ア、イヤぁ………!」
少しずつ、中を押し広げていく感覚に、ヒカルは呻いた。アキラは、ヒカルのソコを存分に
慣らしてから行為に及んだ。それでも、痛くて苦しくて、ヒカルの身体は悲鳴を上げた。
「う―――――――」
懸命に声を抑えようとするヒカルの耳に、アキラの心配そうな声が届いた。
「ガマンしなくていいんだよ?」
ヒカルは、歯を食いしばって首を振った。
「意地っ張りだね……でも、そう言うところが、とても好きだよ…」
繊細な指先が頬に触れ、ヒカルの強張りを溶かしていく。
時間を掛けてゆっくりと全てがヒカルの中に埋め込まれた。
「………進藤」
忙しない息遣いとともに名前を呼ばれて、ヒカルは静かに目を開けた。
「大丈夫?」
ヒカルは小さく頷いて、彼の首に腕をまわした。
一旦、身体を繋げてしまうと、箍が外れてしまったのか、アキラの扱いは烈しく荒々しかった。
にも関わらず、ヒカルはその烈しさを求めていた。自分を穿つアキラをもっと深く感じようと、
自ら足を開き彼の腰を抱え込んだ。
この時をあれほど恐れていたというのに…………恐怖も嫌悪も何も感じなかった。
むしろ、愛しさだけが、胸に溢れてヒカルを熱くした。
「あ―ァ、アァ―や、はぁン………!」
ヒカルの口から絶えることなく声が漏れる。押さえることなど出来なかった。
「ァ、イクよ……ヒカル………」
アキラが熱い吐息が耳に掛かった。
………………………………ヒカル?
薄く目を開け、アキラの顔を見る。彼は強く目を閉じ、自分の行為に没頭している。
―――――――今、なんて?
そう問いかけようとしたとき、大きく腰を突き上げられた。
「ヒァ………!アァァ―――ッ」
ヒカルの意識はそこで途切れた。
(227)
――はい―いえ…こちらの方こそ………申し訳………
遠くで、途切れ途切れに聞こえてくる話声に、眠っていたヒカルの意識は現実へと引き戻された。
「―塔矢?」
手を伸ばした先には、誰もいない。冷たいシーツの手触りが、ヒカルを不安にした。
慌てて身体を起こそうとしたが、身体がだるくて動かない。仕方なく、身体を伏せたまま
部屋の中を見渡す。
暗い部屋の中では自分の手さえ、よく見えなかったが、目が闇になれるにつれ、少しずつ
様子をうかがうことが出来た。
本棚、窓、机に置かれたパソコン………ヒカルの部屋ではない。
「よかった………」
アキラの部屋だ。そして、自分が今横になっているのは、アキラのベッド。
夢ではなかった―――――――
安心したのか、ヒカルは再び瞳を閉じて、またうつらうつらとし始めた。
(228)
気を失ってしまったヒカルから、ゆっくりと身体を離した。名残惜しくはあったが、ヒカルを
このままにしておくわけにはいかない。
アキラはシャツを羽織り、部屋を出て行った。そのまま浴室の方へ向かい、洗面器に湯を
汲んだ。
それから、タオルを数枚用意して、また部屋へと戻った。
ヒカルの汗と涙に濡れた顔を優しく濡れタオルで拭いていく。首筋、胸、腕、汚れた下半身は
特に念入りに拭った。
風邪を引かないように、パジャマを着せようとしたが、小枝のようにか細く痩せているとはいえ、
くったりと力の抜けてしまった身体は頼りなく、重かった。
さんざん苦労して漸く着替えさせたとき、アキラもすっかり疲れ切っていた。エアコンの
温度を調節し、大切にヒカルをタオルケットに包んだ。そうして、ヒカルが目を覚まさないように
そっとドアを開けた。
「ふう………」
シャワーを浴び、濡れた髪をタオルで拭きながら、冷蔵庫の扉を開けた。中には、ミネラルウォーターや
スポーツドリンク、ジュースの缶が並んでいる。そして、未成年であるアキラの元にあってはいけない
ビールが入っていた。スポーツドリンクやジュースはヒカルのために用意しておいたもの、
それ以外は自分のためのものだ。
アキラは迷わずビールを取り出し、プルを押すとぐいっと一息に飲み干した。
「ふ――………」
息を吐いて、手の甲で口を拭う。
以前ヒカルの前で、同じコトをやったとき、大きな目をまん丸に見開いてビックリしていた。
――――可愛かったな……進藤……
またあんな風に、戯れあったりケンカしたり、そんな時間が戻ってくるといい。
(229)
「進藤が起きたら、何か食べるかな?」
ヒカルが食べられるようなものがあっただろうか?今朝買ってきたヨーグルトは、ほとんど
手つかずで残っている。確かに、ヨーグルトだけというのは芸がなさすぎた。アイスクリームとか
プリンも買っておけばよかった。
「何か買ってきておこうか………」
時計を見ると、もう十時をまわっていたが、近くにあるコンビニは幸い二十四時間営業である。
さて出かけようと玄関のドアに手を伸ばし掛けて、ハッとした。アキラは、せっかく履いた靴を
慌てて脱ぎ散らかして、電話へと走った。
「……………あ、夜分恐れ入ります。進藤さんのお宅ですか?」
呼び出し音が鳴ると同時に、相手が電話に出た。アキラは、やっぱりと自分の迂闊さを叱りつけながら、
名前を名乗った。
「はい。連絡が遅くなりまして………つい、夢中になってしまいまして……はい…ヒカル君は
疲れて眠ってしまったので、今日も泊まってもらうことに……」
電話の向こうの声は、意外に冷静だった。アキラのところにヒカルがいることを知っていたからだろう。
昨日、ヒカルは行き先を告げずに家を出てきたらしく、アキラが連絡を入れたとき、彼らは
そろって安堵の息を吐いていた。対応していたのは、ヒカルの母親だが、後ろで父親が
「ヒカルか?どこにいるんだ?大丈夫なのか?」と、しきりに訊いているのが聞こえていた。
「は――――」
受話器を置いて大きな溜息を吐いた。 きっと彼らはやきもきしながら、ヒカルからの連絡を
待っていたに違いない。
彼が今日も泊まるとは思っていなかっただろうし、かといって、急に元気のなくなってしまった
息子をあれこれ詮索するのも憚られて、ここに電話を掛けることも控えていたのだろう。
「ご心配をお掛けしてすみません…」
アキラは電話にぺこりと頭を下げた。
(230)
誰かが、額に手を当てている。大丈夫。少し怠いけど、気分が悪いわけじゃない。むしろ、
温かくてふわふわして、とても気持ちがいい。
その手が髪を梳いたり、頬を撫でたり………とても優しくて、ちょっとくすぐったい。
―――――誰?
「起こした?ゴメン…」
「ん………塔矢…?」
起きあがろうとするヒカルの身体を、アキラが支える。
「気分はどう?身体は大丈夫?お腹へってない?」
矢継ぎ早に問われるが、頭の中がボンヤリしてその言葉の半分も理解できない。ただ、ここが
何処で、どうして自分がここにいるかそれだけはよくわかっている。
「…………お母さんに電話しなくちゃ…」
今日、自分はここに泊まる。アキラの側ですごすのだ。すごく怒られて、「すぐに帰ってこい」と
言われるかもしれないけど、絶対に帰らない。ちゃんとこれが夢でないって、現実だって、納得するまで
ここにいる。
―――――塔矢がいいって言ったらの話だけどさ…
ヒカルの言葉を聞いて、アキラが言った。
「大丈夫。ちゃんと泊めるって連絡しておいたよ。…………どうしたの?」
泣きそうな顔でアキラを見ていたらしい。
「………今日も泊まっていいの?」
「……………ボクが泊まって欲しいんだ。せっかく、キミが戻ってきたんだから…」
『コイツ……どうしていつも、オレの欲しい言葉がわかるんだよ………』
ヒカルは、アキラに何か言葉を伝えたいと思ったが、その何かがわからない。すごく嬉しいのに、
泣きたくて仕方がない。とても複雑な気持ちだった。
「どうかした?」
心配そうに覗き込むアキラに向かって、黙って首を振る。
「そう?それより、さっきキミが眠っている間に、アイス買って来たよ。食べる?」
家と同じ調子で「いらない」と言いかけて、慌てて「食べる」と言い直した。
アキラの顔が輝いた。今まで以上に優しい目で、ヒカルを見ると
「ちょっと、待ってて。持ってくる。」
浮かれた様子で部屋を出て行った。その彼の背中をヒカルも熱く見つめた。
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