平安幻想異聞録-異聞- 229
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「井戸はどこだ?!」
「西の雑舎の裏!」
アキラの問いに、間髪入れずにヒカルが答えた。
すぐに、その場所へ馬を走らせる。
自分達の出した答えが正解であることは、そこに辿りつく前に判った。
肉蛇たちの数が増え、攻撃がより執拗なものになったからだ。それは今までの
ように二人を喰らおうとするよりも、その場所から遠ざけようとする意図の方が
強いように思われた。
井戸が視界に入ったその時、ついにアキラの乗った馬が肉蛇に足を取られ、
恐怖の嘶きをあげて転倒した。アキラが地面に投げ出される。
その様子にヒカルの馬も尻込みしてたたらを踏み、その隙をついて、腹に
噛みついた肉蛇に引き倒された。
ヒカルは落馬する前に馬から飛び降りたが、アキラは受け身を取りそこねて、
したたかに左腕を打ち付けたらしい。うずくまり呻いている。
それを横から肉蛇の一匹が狙っているのを見て、ヒカルは慌てて駆け寄り、
その鎌首を一刀の元にはね飛ばした。
助け起こされたアキラが、ヒカルの背後を守るように背中合わせに立つ。
ねっとりと、呼吸をするのさえ困難なほどの濃い瘴気が、二人を包んでいた。
「なんかこうやってると、いよいよあの時の妖怪退治を思い出すな」
「あの時みたいに後があるんなら、良かったんだけどね」
目の前に集まってくる幾匹もの肉蛇どもを牽制するように太刀を構えながら
ヒカルはアキラと言葉を交わす。
三丈ほど先に井戸があった。
その井戸の中から生える、人の腕ふた抱えほどの太さの、節くれ立った木の幹の
ようなものが一本。
木と違うのは、そこから無数に延びる枝先が、今、ヒカル達を取り囲む肉蛇の
尻尾へと続いていることだ。幹はたくさんの瘤のようなものに埋め尽くされ、
ドクリドクリと脈打っている。その瘤のひとつが、泡が弾けるように割れて、
そこに新たな肉蛇が産まれて生えた。
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