トーヤアキラの一日 23


(23)
北斗杯代表選抜東京予選は10時から開始の予定だ。対局時間と検討時間を考慮に入れて、
ヒカルが出て来そうな時間に棋院の前で待つつもりで早目に出かけた。
棋院の前に着いて暫し佇んでいると、次々に知っている人に声をかけられる。
「塔矢君、何をしてるの?」
「あ、いえ、ちょっと」
こんなやり取りを数回繰り返した所で、棋院の前で待つことはやめた。そもそもヒカルは
仲間と一緒に出てくる可能性が高く、棋院の前では声をかけられない事もあるからだ。
そこで、アキラは地下鉄の入り口で待つことにした。ヒカルが家に帰る時には必ずここを
通るはずである。夕方まで待って来なければ諦めるつもりで、アキラは地下鉄の入り口
手前のビルの路地で待つことにした。

天気は良かったが、2月の屋外は底冷えがした。コートの上にマフラーを巻いて来たが、
手袋は持って来なかったので手がかじかむ。コートのポケットに手を入れ、肩をすぼめて
通行人に目を凝らす。30分、1時間が経つと、足の先の感覚が無くなって来た。
───早く進藤の顔が見たい。・・・・・・・進藤に触れてみたい・・・・・・・
ヒカルに会う事に不安はあったが、どんな形にせよ会える事に対する喜びの方が勝って
いるのも確かだった。体中が冷え切っているのに、心はヒカルに対する想いで激しく燃焼
していた。
更に一時間が経過した。もう来ないかも知れない、と諦めかけた時、ヒカルがこちらに
向かって歩いて来るのが見えた。待ち焦がれた懐かしい姿に、思わず顔がほころんだが、
次の瞬間アキラを不安が襲った。それは、ヒカルが下を向いて元気なく歩いて来るからだった。
───まさか、今日の対局で負けたのか!?
そう思うと、今日の目的も忘れて、勢い良くヒカルの前に飛び出していた。
「進藤!!」



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