クチナハ 〜平安陰陽師賀茂明淫妖物語〜 23
(23)
「この・・・え?」
声が嗄れて巧く出ない。
一晩中呻いたり喘いだりした後、水の一滴すら口にしていないのだ。
夢でも、会えて嬉しい。
だが己を見る光は何だかひどく青ざめて怖い顔をしている。
――夢なら、もっと優しくしてくれればいいのに。
いつものように己の名を呼んで、事あるごとにニコニコ擦り寄って、
抱き締めてくれたらいいのに――
そう思うと止まっていた涙が再び溢れてぽろぽろと頬を濡らし、
それが恥ずかしく思えた明はそっと横向きに顔を伏せた。
そんな明を見て、光はますます表情を固くしていた。
「賀茂・・・オマエ――」
「?」
「誰が・・・誰がこんなこと!」
声の調子に明が驚いて見ると、光の大きな目からボロッと大粒の涙が溢れ出した。
「近衛――」
どうしたんだと云いかけて、ハッと己の今の格好に気づく。
衣裳が乱れ解けて半裸となった上に唇は破け、身体は痣だらけ。
この姿を見て光は何か勘違いをしているのではないだろうか。
事情を説明しようと焦って言葉を探しているうちに、光が大股で駆け寄ってきた。
「オレがついてりゃ、オマエをこんな目に遭わせたりしなかったのに――
ゴメンな、賀茂。ゴメン――」
そう云って光は明を抱き締め、
大丈夫だ、もう大丈夫だぞ、と繰り返してわんわん泣いた。
・・・ただでさえ生身の相手と会話するのは苦手な上に、
今抱き締めてくれる光の腕はとても力強くて温かくて、心地よい日溜りの匂いがする。
慌てて説明するのも面倒臭くなった明は、ひとまず目を閉じその心安らぐ感触に酔った。
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