白と黒の宴2 23
(23)
ひどく疲れていたが、眠る事はとても出来なかった。
一睡も出来ないまま朝になり、ようやく深く眠ったらしい社の腕から逃れる事が出来た。
服を着る間一度社が寝返りを打ち、アキラは息を飲んだが目覚める気配はなかった。
いつも相手を威嚇するように逆立てている髪が今はふわりと顔にかかっている社の寝顔は
年相応にあどけない。よほどアキラに気を許しているのか無防備に安らかに寝息を立てている。
彼なりに相当疲れているはずだ。
一瞬、彼を一人置いていく事に小さな罪悪感を感じた。寝過ごしたりしないだろうか、と考えた。
そんな自分に苦笑しそのまま一人でホテルを抜け出すとタクシーで家に戻った。
今なお、家にはアキラ一人だけだった。
検討会や仕事で遅くなった時は碁会所近くの事務所に泊まる旨を母親に伝えてあったので、
たとえ家を空けていても息子を信頼する両親にはさして怪しまれるところはなかった。
服を着替えてごく軽い食事を摂り、対局の時刻に合わせて棋院会館に向かった。
ほどなく社もやって来た。対局前、社とは顔を合わせないようにしたが、社の方からも
アキラのそばに近寄って来なかった。
目覚めた時隣にアキラが居なかった事に特に腹を立てているわけでもないようだった。
そうして棋院会館で社と越智との最終戦が始められた。
社が勝つ事は確信していた。棋院に来る事に抵抗があったが、選手が決まり次第
細々とした手続きや関係誌へのインタビュー、写真撮影等が待っている。
それにヒカルと共に彼等の対局を見守りたかったし、何よりやはり社が打つ碁は魅力的だった。
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