裏階段 三谷編 23


(23)
愛情を学ぶ前にまともとは到底言えない性行為を何度も強用される事が、その後の少年の人生観を
特殊なものにしてしまう事は想像に難くなかったはずである。それだけの思慮を持った大人が
それまで周囲に居なかった。
あの人との出会いは少し遅すぎて、そしてギリギリのところで間に合った。そんな感じだった。

「セイジ君は女の子にモテるでしょう」
夏間近のある日、放課後の人気のない理科の準備室である女教師の指が肩に触れて来た。
彼女が中学生にしては体格も容姿も大人びた風貌の少年に興味を持っていた事は感じていた。
その時異様な程心が冷め切っていた事を覚えている。ただ無性に何か腹立だしかった。にもかかわらず
その女教師―既にその時はただの一人の女でしかなかったが、関係を持った。
場所が僅かに違うだけで伯父が自分にした事を相手にしただけだった。女の汗と肉の臭いを嗅ぎながら
何かに復讐するように激しく抱いた。女は一方的に到達した。女とはひどく頑丈なものだと感心した。
己の体で支配できると思っていた年下の少年に無表情に卑下するように見下ろされている事に屈辱を
感じながらも女は今後も関係を持つように懇願して来た。なんの事はない。体の奥深くを抉られる行為に
慣れてしまった体にとって女を抱く事がさして重要ではなくなっていたに過ぎない。
おそらくその女教師も恋人にした事がないような、中学の性教育では誰も
教えようとはしない類の方法を一通り教え込まれていたのだから。
だがその日の夜「先生」と碁盤を挟んだ時、「先生」の目を見る事が出来なかった。
恥じるという感情を知った。
そんな自分ともただ黙って穏やかに石を手にする「先生」の傍に本当に自分はいていいのか迷った。
それでも許されるのであればこの人の傍に居たいと願った。



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