指話 23
(23)
動揺と恐怖感からすぐにでも彼の体を押し退け彼の指から逃れたかった。
だが、そうしようとする自分を封じるように、ボクは両手を握り締め脇に置いた。
彼の精神状態が分かっていてそう仕向けた。自分でつくり出した状況なのだ。
彼は一見、暴力的に、衝動のままに、それのみによってボクを性交の対象に
しようとしているかのように見える。だがボクには彼がわざとそうしている
ように思えたのだ。
やがて彼が体を重ね、彼自身を侵入させて来た。堪え難い激痛が下腹部に走った。
無理矢理を押し通させられるボクの体は音をたてて軋み裂けて行くようだった。
それでも、ボクは耐えた。冷や汗が吹き出し、全身を痛みに強張らせながらも
人形のように四肢を投げ出し彼の行為を受け入れ続けた。
―…何故だ…。
激痛による貧血で気を失いかけた時、獣が人間的な感情を取り戻したように、
荒々しく体を動かしてボクに苦痛を強いていた者がようやくその揺さぶりを止めた。
―…何故、拒まないんだ…。オレを憎いと思わないのか…?
相手の熱い体温と汗とは反対に冷たく冷えきって行くボクの体の上で、彼は問う。
冷たい汗で額に張り付いたボクの前髪を指で取り払う。
答える代わりに、その手を捉えた。その指に再度口付け、力の入らない両手で
握り頬擦りをする。
父と同様に、美しい一局をこの指が生み出すのを何度も見て来た。
その持ち主をたったこれくらいの出来事で、何故憎むことができるだろう。
|