アキラとヒカル−湯煙旅情編− 23


(23)
「さあて、風呂行くか?」
断ち切るように、加賀が立ち上がる。
ふたりとも、体中、汗と唾液と体液にまみれていた。
だるい体を引きずって到着した誰もいない深夜の露天風呂で、いいと言うのに、加賀がアキラの体を洗うといってきかなかった。
「ガキん時はいつもこうしてやってたろ。 おまえ人に触られんの嫌いでオレにしか洗わせなかった。」
「そうだった?」
加賀の手が前に回り、首からへそに向けて石鹸をしみ込ませた手ぬぐいを滑らせる。
「あ、あとは自分で・・・。」
ちらりと加賀を振り向くと、硬く膨張した加賀のペニスが目に入り、あわてて目をそらす。
「気にすんな。」
加賀は飄々と笑った。
ライトアップが既に解かれていた露天風呂には月光が降り注いでいた。月は、峰を遠く離れ、高い位置に青白く存在している。
まるでこの世に己とアキラ以外存在していないような幻惑に駆られる。
だが、月光に照らされ、この世のものとは思えぬ美しさを湛えた傍らのアキラは、別のことを考えているのだろう。
「進藤の部屋にもどるか?」
問うと、アキラはすぐにかぶりを振った。
「オレは相変わらず素晴らしく寝相がイイはずだぜ。エルボーがおまえのキレイな顔、直撃するかもしんねーぞ。」
「そしたら、膝蹴りで大人しくさせる。」
「かなわねーな。おまえは遠慮ってものをしらねえからな。」
粛々たる露天風呂にふたりの笑い声が響き渡った。
笑うと急に幼く見えるアキラの顔がふと翳り、加賀の瞳を見つめると、小さくつぶやいた。
「てっちゃん・・・ありがとう。」

部屋に戻ると、汚れていないほうの布団にふたりはもぐりこんだ。
情事で疲れ果てた体に風呂が効いたのか、アキラはすぐに、小さな寝息を立てた。
加賀は・・・眠れなかった。
幼少時代からの思いを遂げたこと、だが、それと同時に思いを絶たれたこと。
体は疲労で重く沈み込むのに、頭の中には次々に妄想やらが乱れ飛び、加賀の心を乱した。
だが、一つの確信。
――これで最後かもしれない。こんな風にアキラの寝顔を見つめていられるのは。
加賀は、片腕で頭を支え、じっと動かなかった。
アキラが目覚めるまで、安らかに眠るその寝顔を、飽きることなく見つめつづけた。



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