誘惑 第三部 23


(23)
「塔矢…」
心地良い脱力感を感じながら、アキラの細い身体をそっと抱きしめると、回された腕にきゅっと力が
こもる。重なり合った胸の間で響く心臓の音がシンクロする。
ゆっくりと治まりゆく鼓動を感じながら、ヒカルは深い息を吐いた。すると、アキラの手がヒカルの髪を
梳きながら顔を上げさせた。
「進藤、」
アキラはヒカルを見上げてにっこりと微笑んでいた。
涙が出そうだ。
「…好きだよ。」
小さく首を傾げて言うその表情があんまり優しくて、耐え切れなくなって、顔を隠すように、また抱き
しめた。そして抱きしめた感触に、アキラの細さを唐突に思いだす。
「ごめん、オレ…」
「…なにが?」
「なんか、つい、夢中になっちゃって…あんな事、言ってたくせに…」
「バカだな…」
耳元でアキラがクスクスと笑い、その息がヒカルの耳をくすぐる。
「このくらいで壊れやしないって、言っただろ?何ならもう一回やる?ボクはまだまだ平気だけど?」
「う……」
しばし逡巡した後に、ヒカルはボソッと答えた。
「今日は…もう、充分…」
だって、おまえ、やっぱなんかキツそうだもん。そう言ったら怒るだろうから言わないけど。
「なんだ、残念。」
「そんなにがっつかなくたって、これからいくらでもできるだろ?」
「それはそうだ。」
ヒカルの耳元で可笑しそうに笑うアキラが愛しかった。だから、アキラの耳にそっと口づけて、囁いた。
「塔矢…好きだ…」
「…うん。」
同じようにくちづけが返ってきた。



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