初めての体験 Asid 23
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ボクは迂闊に誘いに乗ったことを後悔した。いくら何でも、老人相手では、楽しめそうもない。
ボクのモットーは老人には優しくだ。碁会所の客は、中高年が多いので、親切にしておかないと
客に逃げられてしまう。お父さんがつくった碁会所を、ボクがつぶすわけにはいかない。
むかつく客にも笑顔で応対。それがプロだ。
誰も知らないだろうが、ボクの頭の中では、北島さんは既に百回は死んでいる。彼は、
進藤に…進藤に…あんな暴言を……!進藤の「来ない!」宣言がどれほどボクを落ち込ませたか!
思い出したら、悲しくなってきた。ああ…それより、現状を打開する方法を考えなければ―!
ボクの想像力を持ってしても、この桑原本因坊を進藤に見立てるのは難しい。はっきり
言って、ムリだろう。「五十年後の進藤だ」と思いこめば……だめだ!できない!!進藤が
こんな姿になるなんて思えない!思いたくない!五十年後も進藤は、猿の惑星何かじゃない!
愛くるしいポケットモンキーだ!……この老人とは、絶対ムリだ…!
………だが、試しもしないでムリだと決めつけるのも、どうだろうか…。最初から
負けを認めるのは、何より、ボクのプライドが許さない。これはボクに課せられた試練だ。
この老人を攻略してこそ、真の達人への道ではないだろうか?よし――――覚悟を決めよう。
「桑原先生…今日はお誘いいただいてありがとうございます。」
ボクは、最上の笑顔でにっこりと本因坊に笑いかけた。老人は横柄に頷いた。ムカつく。
が、それを堪えて、表面上はあくまでも穏やかに微笑んだ。
「先生のような方に、声をかけていただけるなんて光栄です。」
ボクは、彼の企みに気づかない振りをして、目を輝かせて見せる。それから、あれやこれやと
老人を誉め讃えた。誉められて悪い気はしないのか、老人の口元が僅かに弛む。ボクは、
口先では美辞麗句を並べながら、頭の中はフル回転で、どうやって老人を籠絡するかを
考えていた。
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