天涯硝子 23


(23)

「…へへ、会いに来てくれたんだ。嬉しいな」
ヒカルは冴木に寄り添った。冴木も腕を回し、ヒカルを抱き寄せる。
「…でもオレ、わがまま言った…。ごめん」
冴木は首を横に振り、ヒカルに顔を近づけた。
ヒカルが目を閉じると、そのまま何も言わずに軽く口付けた。
「…シャツ、ありがとう」
唇が離れると、ヒカルは囁き、冴木の首にしがみついた。
ふたりはクスクス笑いながら、抱き合った。
冴木はヒカルをきつく抱きしめ、その小さな体の存在を確かめるように体を擦り、
もう一度、頬と唇に口付けてから、そっとヒカルを離した。
ヒカルが冴木の胸に顔を埋め、息をつく。
名残惜しそうにヒカルの肩を抱いたまま、すまなそうに冴木が言った。
「…帰るよ」
「え?」
ヒカルの顔がさっと曇った。
「帰んの早すぎだよ、冴木さん」
「おまえ、ここでしろってか?下におまえの母さんがいるんだぞ」
「…じゃあさ、一局打ってよ。それ位なら?」
ヒカルは真剣な顔で、冴木を引きとめようとした。
碁盤を挟んで向き合うと、ヒカルは最初、二つの碁笥を手元に置いた。
冴木が碁笥を渡すように促すと、ヒカルはそこで初めて気づき、照れくさそうに碁笥を渡した。
この部屋で誰かと向き合うのは、しばらく前に和谷と打って以来だ。大抵は冴木や和谷の部屋に
上がりこむことが多い。意識しているわけではなかったが、この部屋に人を呼ぶことは滅多になかった。
そして今日、向かい合っている相手が冴木なのは、なおさら佐為を思い起こさせる。
そう、こんな感じだった。この部屋で目に映る人の影は…。
ヒカルは、この数日感じていた身体の重さが消えていくのを感じていた。
冴木が会いに来てくれたことが、昨日まで自分がわがままに思っていたことを、全て
許してくれたようで嬉しかった。
重苦しかった気持ちまでもが軽くなり、ヒカルは調子よくその対局を打ち終えた。
「勝ったー!! 久々の勝利ー!」
勢いよく立ち上がり、ガッツポーズをしてからヒカルはハッとした。
「…まさか」
冴木を見る。冴木は後ろに両手をついて、苦笑いをして首を振った。
「いや、手加減なんかしてないよ。やられたな」
ヒカルは笑顔になり、元のように座ると盤面を指差した。
「右下隅から左辺の攻防に移る時に、先手を取られた時は苦しかったけど」
「すぐに取り返したじゃないか」
冴木は盤面を覗き込み、腕を組んだ。
「やったー。ちょっと調子くずしたけど、次からはバンバン勝ってくぞー」
ヒカルは満足そうに胸を反らした。
「検討するか?」
ヒカルは含み笑いを浮かべ、碁盤をずらして冴木の傍に座わり、身体を持たせかけた。
「おい…」
「ね、ちょっとだけ」
ふざけた感じが憎らしい。
冴木はしょうがないな、と呟き、ヒカルのベッドの上に座りヒカルを抱き上げた。
「声を出すなよ」
そう言って、Tシャツの裾から手を差し入れて、直接ヒカルの肌に触れた。



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