Linkage 23 - 24
(23)
アキラが緒方とのセックスで、シャワーを浴びる気力も無くなるほどの肉体的な
疲労感を感じるのは毎夜のことだった。
にもかかわらず、絶頂の後、崩れ落ちるように緒方の胸の中に倒れ込んでも、
眠りの淵に吸い込まれていくどころか、むしろ眠気を寄せ付けまいとするかの
ように、アキラの頭は冴える一方だった。
休息を求める肉体的欲求に応えようとすればするほど、その努力を嘲笑うかの
ように思考の波は押し寄せてくる。
緒方の所有する薬を服用することが、その思考の波に抗う唯一の術だった。
毎晩服用するのは感心しない……、抱え込んだ膝の上に気怠そうに顎を乗せ、
アキラはそんな緒方の言葉を思い出した。
そもそも、その薬は自身も多少不眠症の気がある緒方が以前から服用しており、
ふとしたきっかけからアキラも服用するようになったものである。
その薬が存在しなければ、緒方との肉体関係も始まることはなかっただろう。
皮肉なことに、今やアキラの服用量の方が緒方のそれを圧倒的に上回っている。
「……誰のせいだと思っているんだか、緒方さんは……」
緒方がアキラを心配して投げかけた言葉であるとわかってはいても、そこに
一抹の悪意を感じずにはいられず、アキラは吐き出すように呟いた。
(24)
程無くして緒方はステンレス製のトレイを片手に持ち、部屋に戻ってきた。
水の入ったグラスと薬の小瓶とスプーン……アキラが眠りにつくために今や
欠かせなくなったものがトレイには載せられている。
緒方はトレイをサイドテーブルの上に置くと、アキラに確認するように言った。
「毎回しつこいようだが、量には気をつけてくれよ。昏睡状態は勘弁して
もらいたいんでね」
アキラは小さく頷くと小瓶の蓋を開け、中の液体を注意深くスプーンで計ると、
グラスにその液体を注ぎ手早く掻き混ぜた。
グラスを手に取り一気に中身を空けると、複雑な表情を浮かべながら「ふうっ」
と大きく息を吐き出す。
「クックック。まあ、何度飲んでも美味くはないな、確かに……」
アキラのなんとも言えない表情に苦笑しながら、緒方は空のグラスを取り上げて
トレイの上に戻すと、羽布団を広げ、のそのそとベッドに横たわるアキラにそっと
かぶせてやった。
「オレはシャワーを浴びてから寝ることにするんで、ちゃんとスペースを空けて
おいてくれよ」
緒方は羽布団の上からアキラの身体をポンポンと優しく叩きながらそう言うと、
トレイを手にして部屋を出ていった。
アキラは緒方が出ていった方向をしばらく見つめていたが、やがて薬が効き
始めるのを待つため、静かに目を閉じた。
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