裏階段 アキラ編 23 - 24


(23)
バスタオルを手渡してやるとアキラはニコリともう一度微笑み、それを腰に巻き付けると
こちらにも早くシャワーを浴びる事を促そうとするように手を伸ばして来て、
オレの眼鏡を外し、脇の洗面台の上に置く。シャツのボタンを外しにかかる。
その手を掴んで制し、ベッドを顎で指すとアキラはオレから離れてそちらへ向かった。
腰からバスタオルを外し、こちらに背を向けてベッドに腰掛けて体に残る雫を拭っている。
艶かしく動くアキラの白い背中を見つめる。
初めて彼を抱いた時の光景が蘇る。
その時のその背中は苦痛に何度も撓り、反り返った。それでも彼は声一つあげなかった。
強い勢いの熱めのシャワーを浴びる。
精神的に負い目を感じながら肉体は既にアキラの感触を望んで勃ちかかっている。
「…囚われている、か。」
あの時の教師の言葉が蘇って来る。
何度も決意しながらもこうして彼を手放せないでいる自分がいる。

事件の影響が全く彼の中に残らなかった訳では決してなかった。
年の離れた大勢の大人の中に混じる事に慣れていた子供だったが、事件以来は常に「先生」か
オレの視線の届く範囲に必ず彼は留まるようになった。
こちらにもアキラとの距離間をとろうとしていた矢先に起こった出来事であったため、
今にして思えば、必要以上に彼の傍に居すぎたかもしれない。
「アキラのやつ、いつも緒方さんにくっついてますねえ。」
半分嫉妬混じりに芦原にそう指摘されるまではあまり意識していなかった。


(24)
その指摘が不正確であったのは、アキラがオレにくっついていただけではなく、オレの方も
アキラから離れられなかった事を見落としていた点だ。
常に互いを視線の端に置いて来た。それが当たり前になっていた。そうする事で少なくとも
オレは安心していた。
そして出来うる限り彼の碁の相手をしてやった。
アキラが自分と一緒にいる理由はその時は考えていなかった。

「あの子、怖い。」
最初彼女のその言葉を聞いた時、その意味をオレは掴みそこねていた。
「あの子って?アキラくんの事かい?」
リーグ入りの常連となり、収入も上がってつき合う女性の種類も変化した。
経済的な援助が必要でなくなれば適度に性欲を処理出来るパートナーでさえあればいい。
そんな中でも比較的長く続いた相手だった。
「家具を選びたい。男の人の意見も欲しい。」とせがまれて買い物につき合った。
遠回しに結婚を迫られていると思った。そろそろ真剣に考えてもいい頃かとは思った。
そうして街なかを彼女と歩いている時に、アキラと出会った。
学校帰りの小学校の制服に身を包んで向こうからやって来た彼は、一瞬驚いたような顔をして、
小さく彼女に会釈してすれ違った。
オレは特にかける言葉も見当たらなくて無言のまま通り過ぎた。それだけだったと思っていた。
「あの時私、綺麗な顔した男の子だなあって思って一度振り返ったの。そしたら、
…あの男の子、道ばたに立ったままこちらを見ていたの。…私の事、睨んでた。」
「気のせいだろう。」
そう答える他はなかった。アキラが彼女を睨む理由など何も思い当たらなかった。



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