平安幻想異聞録-異聞-<外伝> 23 - 24


(23)
あかりが、男と寝るのが初めてなのは、最初に侵入を果たしたときに辛そうにしかめた
顔でわかった。
そのまま一気に進んでしまったほうがいいのか、それともゆっくりしたほうがいい
のか分からなくて戸惑っていたら、あかりが涙目のまま黙って首裏に手を回して
きて、結局ヒカルは、その時起こった衝動のままにあかりの壊れそうに細い腰を
力一杯引き寄せて、最後まで入れてしまった。プツリと糸を切るような感触がして、
次にはねっとりと絡みつくような媚肉に包まれていた。
この幼なじみをこんなに可愛いと思った事はなかった。
初めてなのだからもっと優しくしてやりたいと思ったのは、ほんの数瞬で、後は闇雲に
最後まで突き進むことしかできなかった。
終わるとそのまま、二人は緊張と疲れで寝てしまい、目が覚めたのは一番鶏の声が
する頃。
抱きしめあったまま、一枚の単衣を肩にわけあって寝ていた二人の間に晩秋の朝の
冷気が忍び込む。
「ヒカル、起きてる?」
まだ寝ぼけ眼のヒカルに、あかりが意外にしっかりした声をかける。
夜明け前の暗がりで、部屋には灯明も持ち込まれていなかったから、彼女がどんな
顔をしているかはわからなかった。
その暗闇の中で、あかりがぽそっとつぶやいた。
「なんか、ヒカルが優しくて意外だった」
「…そうかな…」
「うん」
自分はまともに性交渉を伴う付き合いをしたのは佐為だけだったから、抱かれた
事はあっても抱いたことはなく、そういう意味ではヒカルも始めてだった。だから
と言っていいのか、あかりの重さを腕に感じながら頭に描いていたのは、佐為との
秘め事だったと思う。自分と佐為の閨事には綺麗な思い出しかなくて、無意識に
佐為のやり方をなぞっていた。自分のやり方をあかりが優しいと感じたのなら、
それは佐為がヒカルに優しかったからだ。


(24)
「友達に、初めてのときは痛いわよー、辛いわよー、って散々脅されたけど、そうでも
 なかった気がする」
宮中の女房というのは、男の目のないところでいったいどんな会話をしているんだろ
う……。少し呆れながら手探りで単衣を探していたら、胸元に何か押し付けられる
気配がした。
あかりがそうしてよこしたのは、まさにヒカルが探していた、その単衣で。
「ほら、着物来て、早く帰んないと…!」
そういえば、こういう場合、男の方が夜が明ける前に帰るのが礼儀って奴だっけ、
と考えながら身を起こす。やっぱり、男でも女でも不倫や数人掛け持ちなんてのも
多い世の中だし、誰かの家から帰るところを男が見られるのはまずいもんな、とか
思いながら着衣を整えていたら、焦れたのかあかりが手伝ってくれた。でも、なんだか
追い出したいみたいなその態度に、少しムッとして抗議したら、「そういう問題じゃ
ないの! 陽が出てきたら、部屋も明るくなって、顔が見えちゃうでしょ。私、今、
お化粧も取れちゃってるし、髪もぼさぼさだし、酷いんだから。そういうのが見える
ようになる前に帰るのが男の心使いってもんでしょう!」と、密やかな声で怒られた。
そうか、男が陽が出る前に帰らなきゃいけないのってそういう問題だったのかと、
ヒカルは初めて知った。
暗闇で、自分の喉元に触れる着物を整えるあかりの指の感触が、小さく胸を騒がせる。
「別に今更、化粧落ちてお化けみたいなお前の顔見たって、驚くかよ」
「なによー、ヒカルのバーカ」
十年も前から二人が繰り返して来た当たり前のやり取りだったが、こうして闇の中で
声を殺して交わされると、まるで睦言のように聞こえるのが不思議だった。
ヒカルは家人を起こさないように、そっと夜明け間際の庭に降りた。庭に面した廊下
まで、あかりが見送りに来てくれた。
東の空に明けの明星だけがいやに明るく光っていて、地面にうっすらとヒカルの
影を落とした。
「あ、そうだ……」
重大な事に気付いて、ヒカルはあかりを振り返った。



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