金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 23 - 24
(23)
小学校に上がってすぐのことだったと思う。アキラは、母に連れられて近所の大型スーパーに
買い物に行った。それは毎日の日課で、母が買い物している間アキラは中にあるペットショップで
時間を潰し、帰りには二人でアイスクリームを食べて帰るのだ。
母は動物が大好きで、ガラスケースの向こうで戯れる犬や猫を見ては、いつも溜息を吐いていた。
「どうしてうちでも飼わないの?」
「うちはお客様が多いでしょう。きっと、その子達の世話まで手が回らないと思うの…」
頬に手を当て、また溜息を吐く。それさえもすでに日課になっていた。
アキラは一人でペットショップの中を見て回る。入ってすぐの壁際にガラスで仕切られた
部屋があって、その中を子犬や子猫が走り回っている。店の少し奥には、小鳥やウサギの
小動物が、その更に奥はサカナのフロアになっていた。目を輝かせて、通路を早足で抜けていく。
あっちもこっちも可愛くて、目移りしてしまう。
「かわいいなぁ…」
伸び上がったりしゃがんだり、アキラは夢中になって動物たちを覗き込んだ。
「…どうしてもダメなのかな…」
もしも母が許してくれたら、自分は一生懸命世話をする。
ふーとアキラは溜息を吐いた。その姿は母親にそっくりで、なんだかとても微笑ましい。
すっかり顔馴染みになってしまったショップの店員達がクスクスと笑っている。アキラは
それに気付かずに呟いた。
「でもやっぱりダメだよね。」
アキラはまだ小さくて、自分の世話だけで手一杯だし、母は父と自分と多くの門下生の世話で
てんてこ舞いだ。
アキラはまた小さく一つ溜息を吐いた。
(24)
アキラは学校に上がると同時に部屋をもらった。お兄さんになったみたいでうれしかったが、
さすがに夜は少し寂しかった。今までは両親に挟まれて、眠っていたのに……。
さほど広くはない部屋だったが、六歳のアキラが一人で寝るには静かすぎた。
『怖いんじゃないんだよ。ただ、ちょっとだけさびしいだけなんだ。』
と、口の中でモゴモゴと独り言を言った。
犬や猫は無理でもハムスターや小鳥のような小さいものだったら、どうだろう?アキラは
店の奥の方へと入っていった。
鳥かごが壁に据え付けられ、その前にはウサギのケージが置いてある。その隅の方から
ピイピイといくつもの高い鳴き声が重なって聞こえてくる。アキラは、誘われるように
賑やかな声のする方へ向かった。
ガラスの水槽の中で、まだ小さいひな鳥たちが一生懸命口を開けて、エサをねだっている。
「かわいいね。」
アキラがエサを与えている店員のお兄さんに話しかけた。
「ヒナのうちから人間になれさせておくと、手乗りになるんだよ。」
「本当?」
手乗りの小鳥。すごくすてきかもしれない。
「まだ自分で食べられないから、一日に何度もあげないといけないけどね。大変だけど
すごく可愛いよ。」
「一日に何度も?」
「そうだよ。お腹が空くと死んじゃうからね。」
アキラはガッカリした。朝と夕方はいいとして、学校に行っている間はどうなるんだろう。
夜アキラが眠ってしまったら?九時には布団にはいるように言われている。そこから、
朝までヒナが鳴いても目が覚めなかったら?アキラはブルッと小さく身震いした。
――――――小鳥もダメだ。
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